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1呼吸器官に作用する薬

U222022/03/24 14:04

咳止め・痰を出しやすくする薬(鎮咳去痰薬)ー1

 

1)咳や痰が生じる仕組み、鎮咳去痰薬の働き

気道に吸い込まれた埃(ほこり)や塵(ちり)などの異物が気道粘膜の線毛運動によって排出されないとき、飲食物等が誤って気管に入ってしまったとき、又は、冷たい空気や刺激性のある蒸気などを吸い込んだときなど、それらを排除しようとして反射的に咳が出る。このように咳は、気管や気管支に何らかの異変が起こったときに、その刺激が中枢神経系に伝わり、延髄にある咳嗽(がいそう)中枢の働きによって引き起こされる反応である。したがって、咳はむやみに抑え込むべきではないが、長く続く咳は体力の消耗や睡眠不足をまねくなどの悪影響もある。

 

 

 

 

呼吸器官に感染を起こしたときや、空気が汚れた環境で過ごしたり、タバコを吸いすぎたときなどには、気道粘膜からの粘液分泌が増えるが、その粘液に気道に入り込んだ異物や粘膜上皮細胞の残骸などが混じって痰となる。痰が気道粘膜上に滞留すると呼吸の妨げとなるため、反射的に咳が生じて痰を排除しようとする。

気道粘膜に炎症を生じたときにも咳が誘発され、また、炎症に伴って気管や気管支が収縮して喘息(息が切れて、喉がゼーゼーと鳴る状態)を生じることもある。

鎮咳去痰薬は、咳を鎮める、痰の切れを良くする、また、喘息症状を和らげることを目的とする医薬品の総称である。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、内用液剤、シロップ剤等のほか、口腔咽喉薬の目的を兼ねたトローチ剤やドロップ剤がある。

 

2)代表的な配合成分等、主な副作用

 

鎮咳去痰(ちんがいきょたん)薬には、咳を鎮める成分、気管支を拡げる成分、痰の切れを良くする成分、気道の炎症を和らげる成分等を組み合わせて配合されている。

 

咳止め・痰を出しやすくする薬(鎮咳去痰薬)ー2

a)中枢神経系に作用して咳を抑える成分(鎮咳成分)

咳を抑えることを目的とする成分のうち、延髄の咳嗽(がいそう)中枢に作用するものとして、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩、ノスカピン、ノスカピン塩酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、チペピジンヒベンズ酸塩、ジメモルファンリン酸塩、クロペラスチン塩酸塩、クロペラスチンフェンジゾ酸塩等がある。

これらのうちコデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩については、その作用本体であるコデイン、ジヒドロコデインがモルヒネと同じ基本構造を持ち、依存性がある成分であり、麻薬性鎮咳がい成分とも呼ばれる。長期連用や大量摂取によって倦怠感や虚脱感、多幸感等が現れることがあり、薬物依存につながるおそれがある。(濫用等のおそれのある医薬品の販売については第4章-2)【その他遵守事項等】参照。)特に内服液剤では、その製剤的な特徴(第2章-3)(剤形ごとの違い、適切な使用方法)参照。)から、本来の目的以外の意図で服用する不適正な使用がなされることがある。

コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩は、妊娠中に摂取された場合、吸収された成分の一部が血液・胎盤関門を通過して胎児へ移行することが知られている。また、分娩(ぶんべん)時服用により新生児に呼吸抑制が現れたとの報告がある。また、母乳移行により乳児でモルヒネ中毒が生じたとの報告があり、授乳中の人は服用しないか、授乳を避ける必要がある。

そのほか、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩は胃腸の運動を低下させる作用も示し、副作用として便秘が現れることがある。

また、コデインリン酸塩水和物又はジヒドロコデインリン酸塩(以下「コデイン類」という。)を含む医薬品(以下「本剤」という。)については、米国等において12歳未満の小児等への使用を禁忌とする措置がとられたことを踏まえ、平成29年度第3回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で本剤の安全対策について検討された。その結果、本剤による死亡例の国内報告はなく、日本での呼吸抑制のリスクは欧米と比較して遺伝学的に低いと推定されること等から、国内で直ちに使用を制限する必要性は考えにくい一方、本剤による小児の呼吸抑制発生リスクを可能な限り低減する観点から、一般用医薬品・医療用医薬品とも、予防的な措置として以下を行うこととされた。

 速やかに添付文書を改訂し、原則、本剤を12歳未満の小児等に使用しないよう注意喚起を行うこと。

 1年6ヶ月程度の経過措置期間を設け、コデイン類を含まない代替製品や、12歳未満の小児を適応外とする製品への切換えを行うこと。

 

【参考】厚生労働省からの通達により、既に、12歳未満の小児には禁忌となっている。

 

(通達)薬生安発070911号(令和元年79日)

コデインリン酸塩水和物、ジヒドロコデインリン酸塩又はトラマドール塩酸塩を含む医薬品の「使用上の注意」改訂の周知について

 

 切換え後、12歳未満の小児への使用を禁忌とする使用上の注意の改訂を再度実施すること(一般用医薬品は「してはいけないこと」に「12歳未満の小児」に追記する使用上の注意の改訂を再度実施すること)。

これに対してノスカピン、ノスカピン塩酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、チペピジンヒベンズ酸塩、チペピジンクエン酸塩、ジメモルファンリン酸塩、クロペラスチン塩酸塩、クロペラスチンフェンジゾ酸塩等は、非麻薬性鎮咳成分とも呼ばれる。デキストロメトルファンフェノールフタリン塩は、主にトローチ剤・ドロップ剤に配合される鎮咳である。

 

中枢性の鎮咳作用を示す生薬成分として、ハンゲ(サトイモ科のカラスビシャクのコルク層を除いた塊茎を基原とする生薬)が配合されている場合もある。

 

 

 

 

咳止め・痰を出しやすくする薬(鎮咳去痰薬)ー3

b)気管支を拡げる成分(気管支拡張成分)

メチルエフェドリン塩酸塩、メチルエフェドリンサッカリン塩、トリメトキノール塩酸塩、メトキシフェナミン塩酸塩等のアドレナリン作動成分は、交感神経系を刺激して気管支を拡張させる作用を示し、呼吸を楽にして咳や喘息の症状を鎮めることを目的として用いられる。

アドレナリン作動成分と同様の作用を示す生薬成分として、マオウ(マオウ科のマオウ、チュウマオウ又はエフェドラ・エクイセチナの地上茎を基原とする生薬)が配合されている場合もある。マオウについては、気管支拡張のほか、発汗促進、尿量増加(利尿)等の作用も期待される。

アドレナリン作動成分及びマオウ(構成生薬にマオウを含む漢方処方製剤も同様。)については、気管支に対する作用のほか、交感神経系への刺激作用によって、心臓血管系や、肝臓でのエネルギー代謝等にも影響が生じることが考えられる。心臓病、高血圧、糖尿病又は甲状腺機能障害の診断を受けた人では、症状を悪化させるおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。高齢者では、心臓病や高血圧、糖尿病の基礎疾患がある場合が多く、また、一般的に心悸亢進(しんきこうしん)や血圧上昇、血糖値上昇を招きやすいので、使用する前にその適否を十分考慮し、使用する場合にはそれらの初期症状等に常に留意する等、慎重な使用がなされることが重要である。

これらのうちメチルエフェドリン塩酸塩、メチルエフェドリンサッカリン塩、マオウについては、中枢神経系に対する作用が他の成分に比べ強いとされ、依存性がある成分であることに留意する必要がある。また、メチルエフェドリン塩酸塩、メチルエフェドリンサッカリン塩については、定められた用法用量の範囲内で乳児への影響は不明であるが、吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが知られている。

自律神経系を介さずに気管支の平滑筋に直接作用して弛緩させ、気管支を拡張させる成分として、ジプロフィリン等のキサンチン系成分がある。キサンチン系成分も中枢神経系を興奮させる作用を示し、甲状腺機能障害又はてんかんの診断を受けた人では、症状の悪化を招くおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。また、キサンチン系成分は心臓刺激作用を示し、副作用として動悸が現れることがある。

 

c)痰の切れを良くする成分(去痰成分)

気道粘膜からの粘液の分泌を促進する作用を示すもの(グアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウム、クレゾールスルホン酸カリウム等)、痰の中の粘性タンパク質を溶解・低分子化して粘性を減少させるもの(エチルシステイン塩酸塩、メチルシステイン塩酸塩、カルボシステイン等)、粘液成分の含量比を調整し痰の切れを良くするもの(カルボシステイン)、さらに、分泌促進作用・溶解低分子化作用・線毛運動促進作用を示すもの(ブロムヘキシン塩酸塩)などがある。

 

d)炎症を和らげる成分(抗炎症成分)

気道の炎症を和らげることを目的として、トラネキサム酸、グリチルリチン酸二カリウム等が配合されている場合がある。これら成分に関する出題については、-1(かぜ薬(内服))を参照して作成のこと。

グリチルリチン酸を含む生薬成分として、カンゾウ(マメ科のウラルカンゾウ又はグリキルリザ・グラブラの根及びストロンで、ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)を基原とする生薬)が用いられることもある。カンゾウについては、グリチルリチン酸による抗炎症作用のほか、気道粘膜からの分泌を促す等の作用も期待される。

カンゾウを大量に摂取するとグリチルリチン酸の大量摂取につながり、偽アルドステロン症を起こすおそれがある。むくみ、心臓病、腎臓病又は高血圧のある人や高齢者では偽アルドステロン症を生じるリスクが高いため、それらの人に1日最大服用量がカンゾウ(原生薬換算)として1g以上の製品を使用する場合は、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談する等、事前にその適否を十分考慮するとともに、偽アルドステロン症の初期症状に常に留意する等、慎重に使用する必要がある。また、どのような人が対象であっても、1日最大服用量がカンゾウ(原生薬換算)として1g以上となる製品は、長期連用を避ける。

なお、カンゾウは、かぜ薬や鎮咳去痰薬以外の医薬品にも配合されていることが少なくなく、また、甘味料として一般食品等にも広く用いられるため、医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して、摂取されるグリチルリチン酸の総量が継続して多くならないよう注意を促すことが重要である。

甘草湯(かんぞうとう)は、構成生薬がカンゾウのみからなる漢方処方製剤で、体力に関わらず広く応用でき、激しい咳、口内炎、しわがれ声に、外用では痔・脱肛の痛みに用いられる。日本薬局方収載のカンゾウも、煎薬として同様の目的で用いられる。いずれについても、短期間の服用に止め、連用しないこととされており、5~6回使用しても咳や喉の痛みが鎮まらない場合には、漫然と継続せず、いったん使用を中止し、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。なお、甘草湯のエキス製剤は乳幼児にも使用されることがあるが、その場合、体格の個人差から体重あたりのグリチルリチン酸の摂取量が多くなることがあり、特に留意される必要がある。

 

e)抗ヒスタミン成分

咳や喘息、気道の炎症は、アレルギーに起因することがあり、鎮咳成分や気管支拡張成分、抗炎症成分の働きを助ける目的で、クロルフェニラミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩等の抗ヒスタミン成分が配合されている場合がある。

気道粘膜での粘液分泌を抑制することで痰が出にくくなることがあるため、痰の切れを良くしたい場合は併用に注意する必要がある。

抗ヒスタミン成分に関する出題や、抗ヒスタミン成分が配合された内服薬に共通する留意点に関する出題については、(内服アレルギー用薬)を参照して作成のこと。