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1症状からみた主な副作用

U222022/03/24 11:22

症状からみた主な副作用

医薬品は、十分注意して適正に使用された場合でも、副作用を生じることがある。一般に、重篤な副作用は発生頻度が低く、多くの患者はもちろん、医薬品の販売等に従事する専門家にとっても遭遇する機会は極めてまれである。しかし、副作用の早期発見・早期対応のためには、医薬品の販売等に従事する専門家が副作用の症状に関する十分な知識を身に付けることが重要である。

厚生労働省では「重篤副作用総合対策事業」の一環として、関係学会の専門家等の協力を得て、「重篤副作用疾患別対応マニュアル」を作成し、公表している。

 

 

本マニュアルが対象とする重篤副作用疾患の中には、一般用医薬品によって発生する副作用も含まれており、医薬品の販売等に従事する専門家は、購入者等への積極的な情報提供や相談対応に、本マニュアルを積極的に活用することが望ましい。

また、医薬品の販売等に従事する専門家は、購入者等に対して、一般用医薬品による副作用と疑われる症状について医療機関の受診を勧奨する際に、当該一般用医薬品の添付文書等を見せて説明するなどの対応をすることが望ましい。

一般用医薬品による副作用は、長期連用のほか、不適切な医薬品の併用や医薬品服用時のアルコール飲用等が原因で起きる場合があり、医薬品を使用する時の状況に応じて適切な指導を行うことが重要である。

全身的に現れる副作用

1)ショック(アナフィラキシー)

ショック(アナフィラキシー)は、生体異物に対する即時型のアレルギー反応の一種である。原因物質によって発生頻度は異なり、医薬品の場合、以前にその医薬品によって蕁麻疹(じんましん)等のアレルギーを起こしたことがある人で起きる可能性が高い。

一般に、顔や上半身の紅潮・熱感、皮膚の痒(かゆ)み、蕁麻疹、ロ唇や舌・手足のしびれ感、むくみ(浮腫)、吐きけ、顔面蒼白(そうはく)、手足の冷感、冷や汗、息苦しさ・胸苦しさなど、複数の症状が現れる。一旦発症すると病態は急速に悪化することが多く、適切な対応が遅れるとチアノーゼや呼吸困難等を生じ、致命的な転帰をたどることがある。

 

【チアノーゼ】

種々の原因により、皮膚や粘膜が紫青色から暗赤色になる状態。

血液中の酸素濃度が低下した際に現れやすい。

 

発症後の進行が非常に速やかな(通常、2時間以内に急変する。)ことが特徴であり、直ちに救急救命処置が可能な医療機関を受診する必要があるが、何よりも医薬品の使用者本人及びその家族等の冷静沈着な対応が非常に重要である。

 

2)重篤な皮膚粘膜障害

a) 皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)

皮膚粘膜眼症候群は、38以上の高熱を伴って、発疹(ほっしん)・発赤、火傷様の水疱(すいほう)等の激しい症状が比較的短時間のうちに全身の皮膚、口、眼等の粘膜に現れる病態で、最初に報告をした二人の医師の名前にちなんでスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)とも呼ばれる。

発生頻度は、人口100万人当たり年間1~6人と報告されている。発症機序の詳細は不明であり、また、発症の可能性がある医薬品の種類も多いため、発症の予測は極めて困難である。

 

b) 中毒性表皮壊死融解症(TEN)

中毒性表皮壊死融解症は、38以上の高熱を伴って広範囲の皮膚に発赤が生じ、全身の10%以上に火傷様の水疱、皮膚の剥離(はくり)、びらん等が認められ、かつ、口唇の発赤・びらん、眼の充血等の症状を伴う病態で、最初に報告をした医師の名前にちなんでライエル症候群とも呼ばれる。

皮膚粘膜眼症候群と関連のある病態と考えられており、中毒性表皮壊死融解症の症例の多くが皮膚粘膜眼症候群の進展型とみられる。発生頻度は、人口100万人当たり年間0.4~1.2人と報告されている。皮膚粘膜眼症候群と同様に、発症機序の詳細は不明であり、発症の予測は困難である。

皮膚粘膜眼症候群及び中毒性表皮壊死融解症のいずれもが発生は非常にまれであるとはいえ、一旦発症すると多臓器障害の合併症等により致命的な転帰をたどることがあり、また、皮膚症状が軽快した後も眼や呼吸器等に障害が残ったりする重篤な疾患である。従って、

 38以上の高熱

 目の充血、目やに(眼分泌物)、まぶたの腫れ、目が開けづらい

 口唇の違和感、口唇や陰部のただれ

 排尿・排便時の痛み

 喉の痛み

 広範囲の皮膚の発赤

等の症状が持続したり、又は急激に悪化したりする場合には、原因と考えられる医薬品の使用を中止して、直ちに皮膚科の専門医を受診する必要がある。特に、両眼に現れる急性結膜炎(結膜が炎症を起こし、充血、目やに、流涙、痒み、腫れ等を生じる病態)は、皮膚や粘膜の変化とほぼ同時期又は半日~1日程度先行して生じることが知られているので、そのような症状が現れたときは、皮膚粘膜眼症候群又は中毒性表皮壊死融解症の前兆である可能性を疑うことが重要である。

皮膚粘膜眼症候群と中毒性表皮壊死融解症は、いずれも原因医薬品の使用開始後2週間以内に発症することが多いが、1ヶ月以上経ってから起こることもある。

 

3)肝機能障害

医薬品により生じる肝機能障害は、有効成分又はその代謝物の直接的肝毒性が原因で起きる中毒性のものと、有効成分に対する抗原抗体反応が原因で起きるアレルギー性のものに大別される。

軽度の肝障害の場合、自覚症状がなく、健康診断等の血液検査(肝機能検査値の悪化)で初めて判明することが多い。主な症状に、全身の倦怠感、黄疸のほか、発熱、発疹、皮膚の掻痒(そうよう)感、吐きけ等がある。黄疸とは、ビリルビン(黄色色素)が胆汁中へ排出されず血液中に滞留することにより生じる、皮膚や白眼が黄色くなる病態である。また、過剰となった血液中のビリルビンが尿中に排出されることにより、尿の色が濃くなることもある。

肝機能障害が疑われた時点で、原因と考えられる医薬品の使用を中止し、医師の診療を受けることが重要である。漫然と原因と考えられる医薬品を使用し続けると、不可逆的な病変(肝不全)を生じ、死に至ることもある。

 

4)偽アルドステロン症

【アルドステロン】

副腎皮質から分泌されるホルモンで、体内に水・ナトリウムを保持し、カリウムを排出するよう働く。

 

体内に塩分(ナトリウム)と水が貯留し、体からカリウムが失われることによって生じる病態である。副腎皮質からのアルドステロン分泌が増加していないにもかかわらずこのような状態となることから、偽アルドステロン症と呼ばれている。

主な症状に、手足の脱力、血圧上昇、筋肉痛、こむら返り、倦怠感、手足のしびれ、頭痛、むくみ(浮腫)、喉の渇き、吐きけ・嘔吐等があり、病態が進行すると、筋力低下、起立不能、歩行困難、痙攣等を生じる。

小柄な人や高齢者で生じやすく、原因医薬品の長期服用後に初めて発症する場合もある。また、複数の医薬品や、医薬品と食品との間の相互作用によって起きることがある。初期症状に不審を感じつつも重症化させてしまう例が多く、偽アルドステロン症が疑われる症状に気付いたら、直ちに原因と考えられる医薬品の使用を中止し、速やかに医師の診療を受けることが重要である。

 

5)病気等に対する抵抗力の低下等

医薬品の使用が原因で血液中の白血球(好中球)が減少し、細菌やウイルスの感染に対する抵抗力が弱くなって、突然の高熱、悪寒、喉の痛み、口内炎、倦怠感等の症状を呈することがある。進行すると重症の細菌感染を繰り返し、致命的となることもある。ステロイド性抗炎症薬や抗癌薬などが、そのような易感染性をもたらすことが知られている。初期においては、かぜ等の症状と見分けることが難しいため、原因医薬品の使用を漫然と継続して悪化させる場合がある。医薬品を一定回数又は一定期間使用した後に症状が出現したのであれば、医薬品の副作用の可能性を考慮して、その医薬品の使用を中止して、血液検査ができる医師の診断を受ける必要がある。

このほか、医薬品の使用が原因で血液中の血小板が減少し、鼻血、歯ぐきからの出血、手足の青あざ(紫斑)や口腔粘膜の血腫等の内出血、経血が止まりにくい(月経過多)等の症状が現れることがある。脳内出血等の重篤な病態への進行を予防するため、何らかの症状に気付いたときは、原因と考えられる医薬品の使用を直ちに中止して、早期に医師の診療を受ける必要がある。

精神神経系に現れる副作用

1)精神神経障害

医薬品の副作用によって中枢神経系が影響を受け、物事に集中できない、落ち着きがなくなる等のほか、不眠、不安、震え(振戦)、興奮、眠気、うつ等の精神神経症状を生じることがある。これらのうち、眠気は比較的軽視されがちであるが、乗物や危険な機械類の運転操作中に眠気を生じると重大な事故につながる可能性が高いので、眠気を催すことが知られている医薬品を使用した後は、そのような作業に従事しないよう十分注意することが必要である。

精神神経症状は、医薬品の大量服用や長期連用、乳幼児への適用外の使用等の不適正な使用がなされた場合に限らず、通常の用法・用量でも発生することがある。これらの症状が現れた場合は、原因と考えられる医薬品の使用を中止し、症状によっては医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

 

2)無菌性髄膜炎

髄膜炎のうち、髄液に細菌・真菌が検出されないものをいう。大部分はウイルスが原因と考えられているが、マイコプラズマ感染症やライム病、医薬品の副作用等によって生じることもある。医薬品の副作用が原因の場合、全身性エリテマトーデス、混合性結合組織病、関節リウマチ等の基礎疾患がある人で発症リスクが高い。

多くの場合、発症は急性で、首筋のつっぱりを伴った激しい頭痛、発熱、吐きけ・嘔吐、意識混濁等の症状が現れる。これらの症状が現れた場合は、原因と考えられる医薬品の使用を直ちに中止し、医師の診療を受ける必要がある。早期に原因医薬品の使用を中止すれば、速やかに回復し、予後は比較的良好であることがほとんどであるが、重篤な中枢神経系の後遺症が残った例も報告されている。また、過去に軽度の症状を経験した人の場合、再度、同じ医薬品を使用することにより再発し、急激に症状が進行する場合がある。

 

3)その他

心臓や血管に作用する医薬品により、頭痛やめまい、浮動感(体がふわふわと宙に浮いたような感じ)、不安定感(体がぐらぐらする感じ)等が生じることがある。これらの症状が現れた場合は、原因と考えられる医薬品の使用を中止し、症状によっては医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

このほか、医薬品を長期連用したり、過量服用するなどの不適正な使用によって、倦怠感や虚脱感等を生じることがある。医薬品の販売等に従事する専門家は、販売する医薬品の使用状況にも留意する必要がある。