• 憲法ー11.内閣
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1内閣の地位

堀川 寿和2022/03/14 15:31

 国会について「国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」と定め(41条)、裁判所について「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」と定める(76条)のと異なり、内閣については「行政権は、内閣に属する」と定めている(65条)。すなわち、内閣は、国会や裁判所と異なり、唯一の行政機関ではなく、行政作用を統括する地位にある。

行政権の意味

 『行政権』の意味については争いがあるが、行政権とは、すべての国家作用のうちから、立法作用と司法作用を除いた残りの作用、ないしは、すべての国家作用のうちから、国家機関相互間の抑制と均衡の関係で行われる作用を除いた上で、さらに立法作用と司法作用を除いた残りの作用であるとする控除説が通説である。

 

cf. 田中二郎説(東京大学法学博士)

「法の下に規制を受けながら、現実具体的に国家目的の積極的実現をめざして行われる全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動」

議院内閣制

 議院内閣制とは、立法府と行政府の関係につき、両者を一応分立させるものの、大統領制のようには厳格に分離させることなく、内閣の成立と存続を国会の意思に依存させるというかたちで権力分立を図る制度である。内閣は行政権の行使について、国会に対し連帯責任を負うこと(663項)、衆議院は内閣不信任決議権をもつこと(69条)、国会は国会議員の中から内閣総理大臣を指名すること(67条)、国務大臣の過半数は国会議員でなければならないこと(681項)などから、日本国憲法が議院内閣制を採用していることは疑いない。

 

(1) 議院内閣制の本質

 議院内閣制の本質については、内閣の議会解散権(我が国では衆議院解散権)を本質的要素と見るか否かという点を巡って、次のように争いがある。

① 責任本質説

 議会が政府をコントロールすることを重視し、内閣の議会に対する責任が議院内閣制の本質的要素であるとする説。これによれば、解散権は議院内閣制の本質ではないため、解散事由を限定することも可能である。

② 均衡本質説

 政府と議会とが抑制と均衡の関係にあることを重視し、議会の内閣不信任決議権に対抗する、内閣の議会解散権が議院内閣制の本質的要素であるとする説。これによれば、解散事由を限定することは認められない。

 

(2) 衆議院解散の根拠

 衆議院の解散とは、任期満了前に衆議院議員全員の資格を失わせる行為である。日本国憲法は衆議院の解散について、天皇が国事行為として行うこと(73号)、内閣が不信任を受けた場合(不信任決議案の可決又は信任決議案の否決)、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならないこと(69条)を定めている。しかし、誰が解散を決定する権限を有し、いかなる場合に解散を決定しうるのかについては争いがある。

 まず、解散の認められる場合については、内閣が不信任を受けた場合のみに限定すべきだとする69条限定説と、それ以外の場合にも衆議院の解散を認めるべきだとする69条非限定説とに分けられる。なお、解散権の帰属については、69条非限定説のうち自律解散説を除いて、内閣にのみ帰属するという点で共通している。

69条限定説

 解散権は内閣に帰属するが、その行使は内閣が不信任を受けた場合にのみ可能であるとして、69条に解散の根拠を求める説。これによれば、天皇は国政に関する実質的な決定権を持たないから(41項)、天皇の国事行為としての衆議院の解散(73号)は形式的・儀礼的な行為に過ぎないところ、内閣の助言と承認もこの形式的・儀礼的行為に対して行うものであって、その内容を自由に決定できるわけではなく、内閣も実質的決定権を持たないから、7条に内閣による衆議院の解散の根拠を求めることはできない。

69条非限定説

 解散の根拠規定を巡って次の諸説に細分される。

(a) 7条説

 解散権の根拠を内閣の助言・承認権に求める説。これによれば、天皇が国事行為を行う場合、天皇自身に実質的決定権はなく、内閣の助言と承認によってその内容が決定されるから(7条)、国事行為について実質的決定権は内閣にあり、衆議院の解散についてもまた内閣が自由に決定することができる。また、69条は、内閣が不信任を受けた場合について定める規定にすぎず、それ以外の場合に解散を禁じた規定ではない。この説が通説であり、実際の国会運営では7条による解散が多く行われているといわれている。

(b) 65条説

 衆議院の解散は、立法行為でも司法行為でもないことから、行政作用に属するとした上で、行政作用を行う権限が内閣に帰属することを定めた65条に解散権の根拠を求める説。しかし、立法行為でも司法行為でもなければ直ちに行政作用に属するのかという疑問が出されている。

(c) 制度説

 解散権の根拠を議院内閣制や権力分立原理に求める説。しかし、議院内閣制において自由な解散権が認められるのかという疑問や、循環論法ではないのかという疑問が出されている。

(d) 自律解散説

 解散権は衆議院自身が持つのが原則であり、衆議院は自らの議決によっていつでも自由に解散を決定できるとし、例外的に内閣が解散権を行使できるのは、69条の場合のみであるとして、解散権の根拠を国民主権原理などに求める説。しかし、自律的解散は、多数者の意思によって少数者の議員としての地位が剥奪されることになるため、このような制度を認めるには明文が必要であるところ、このような明文が存在しないことや、参議院に解散が認められていないことから、疑問が出されている。