- 憲法ー7.社会権
- 5.労働基本権
- 労働基本権
- Sec.1
1労働基本権
■労働基本権の意義
近代法の原則である契約自由の原則のもとでは、労働者は、個々に使用者と対等の立場に立って、労働条件について交渉し自由に労働契約を締結することができるはずである。しかし、高度に発達した資本主義経済体制のもとでは、労働者は使用者との契約関係において常に不利な立場に立つ。28条は使用者に対して経済的弱者の地位にある労働者に対して使用者と実質的に対等の立場に立つことができるための手段として労働三権を保障した。労働三権は、団結権、団体交渉権、団体行動権の3つからなる。
cf. 「勤労者」とは、労働力を提供して対価(賃金、給料、その他これに準ずる収入)を得て生活する者をいう。公務員も、労働力の提供により収入を得ているので勤労者である。
※ 「勤労者」に含まれない者…自営業、開業医、農民、漁民など自己の計算において業を営む者
■労働基本権の性格
28条は、複合的性格を持つ人権である。またこの権利は、使用者との対抗関係において勤労者に認められる権利であって、国家との関係のみならず私人間にも適用される。
(1) 自由権的側面
国は、労働基本権を侵害するような立法その他の国家行為をしてはならない。
例: 刑事免責…正当な争議行為に対しては刑罰その他の不利益を課してはならない(労組法1条②、刑法35条)
(2) 社会権的側面
① 労働者は、国に対して、労働基本権を保障する措置を要求し、国はその施策を実現すべき義務を負う。
例:労働委員会による不当労働行為の救済(労組法7条)
② 使用者は、労働者の労働基本権の行使を尊重すべき義務を負う。
例:民事免責…正当な争議行為を行った結果、使用者側に損害が生じた場合でも、労働者は損害賠償責任を負わない(労組法8条)。
■労働基本権の内容
(1) 団結権
① 団結権の意味
団結権とは、労働条件の維持・改善のために使用者と対等の交渉ができる団体を結成したり、それに参加したりする権利である。
② 団結権の限界
団結権は、労働者の結成する団体が、使用者に対抗する上での立場を強化することを目的として保障されるものであるから、その目的達成のために、加入強制や内部統制などの組織強制が一定程度認められる。もっとも、組織強制は労働者個人の権利と抵触する場合があるため、両者の調整が必要となる。
(a) 加入強制の合憲性
労働組合への加入強制は、結社の自由の一内容である結社しない自由を制限することになるが、団結権が結社の自由と別に規定されたのは、団結権には労働者が組合に参加しない自由を制限できるところに特色があるとして、これを合憲とするのが学説上多数である。
(b) 労働組合の統制権の合憲性
労働組合の統制権は、労働組合の団結権を確保するために必要であり、28条を根拠に組合固有の権利として認められる憲法上の権利であるが、個々の組合員の権利との関係で、統制権には限界があるとするのが判例の見解である。
判例 |
三井美唄労組事件(最大判S43.12.4) |
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労働組合が、組合の統制に反して独自に市議会議員選挙に立候補した組合員に対してした組合員の権利停止処分等が公職の侯補者又は候補者になろうとする者に対する選挙に関する自由を妨害する行為を処罰する公職選挙法225条3号に違反するとして争われた事件。 |
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《判旨》 |
労働組合が組合員に対し、勧告又は説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するのは、その統制権の限界を超えるものであって違法である。 |
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cf. 国労広島事件 →前掲
(2) 団体交渉権
団体交渉権とは、労働者の団体が使用者と労働条件について交渉する権利であり、交渉の結果、締結されるのが労働協約である。労働協約は規範的効力をもつ。
cf. 労働協約に反する労働契約は無効となる(労組法16)。
(3) 団体行動権(争議権)
① 団体行動権の意味
団体行動権とは、労働者の団体が労働条件の改善を図るために団体行動を行う権利であり、その中心は争議行為である。
cf. 争議行為の手段
・ ストライキ: 労働者が一致団結して労働をやめること
・ サボタージュ: 労働者が団結して作業能率を低下させること
・ ピケッティング: スト中に、スト破りを見張り、他の労働者に争議行為参加を促し、一般市民に労働争議の存在を示し世論を喚起するため、工場・事業所の入口に立つこと
・ 生産管理: 労働組合が、一時的に企業施設・資材・資金等を手中に収め、使用者の指揮命令を排除して自ら企業の経営を行うこと
② 争議行為の正当性
正当な争議行為は、憲法・労働組合法で保障された権利の行使であるから、刑事責任を問われず、民事上の債務不履行・不法行為責任を免除される。そこで、正当な争議行為の範囲が問題となる。
(a) 政治ストの正当性
政治ストとは、特定政府の退陣要求や 特定の法律の制定・改廃要求など、政治的要求ないし抗議をかかげて行うストライキをいう。判例は、政治ストには28条の保障が及ばないとする。
【私企業の労働者たると、公務員を含むその他の勤労者たるとを問わず、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係があるとはいえない警職法の改正に反対のような政治目的のために争議行為を行うがごときは、もともと憲法28条の保障とは無関係なものである】(全農林警職法事件 後掲)
(b) 生産管理の正当性
判例は、生産管理は使用者の所有権侵害に当たり、正当な争議行為に含まれないとする。