• 憲法ー4.精神的自由権
  • 4.表現の自由
  • 表現の自由
  • Sec.1

1表現の自由

堀川 寿和2022/03/14 14:11

表現の自由の意義と価値

(1) 意義

 表現の自由とは、人の内心における精神作用を外部に公表する精神活動の自由をいう。公表の方法の如何を問わない。

 

(2) 価値

 表現の自由を支える価値として、次の2点があげられる。これらによって、表現の自由の優越的地位が導き出される。

① 自己実現の価値

 個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値

 [根拠] 精神的自由、とりわけ表現の自由なくして自由な人格の形成・発展はありえない。

② 自己統治の価値

 言論活動によって、国民が政治的意思決定に関与するという社会的な価値

 [根拠] 主権者たる国民が真理を究明し、政治的意思を自由に決定しかつ表明しうることが、民主的な政治過程を維持・発展させていくうえで不可欠の前提となる。

知る権利

(1) 知る権利の意義

 知る権利とは、情報源(国家機関、マス・メディア)から情報を自由に受領し、また、これに対して情報の開示を請求する権利のことをいう。

 

 

(2) 憲法上の根拠

 知る権利を保障する憲法の明文規定はないが21条によって保障されると解される。

[理由]

1. 元来、表現の自由は、自己の思想や情報を発表し、伝達する自由であるが、意見を発表するにはそれに必要な情報を獲得しておくことが不可欠である。知る権利は、表現の自由の前提をなすものである。

2. マス・メディアの集中化、独占化が進み、それらのメデイアから大量の情報が一方的に流されるようになったことで、情報が社会生活においてもつ意義が飛躍的に増大するとともに、情報の受け手(一般国民)と情報の送り手(マス・メディア)の分離が顕著になった。そこで、表現の自由を受け手の側から再構成し、表現の受け手の自由(読む自由、聞く自由、見る自由)を保障するため、それを知る権利として捉えることが必要となった。

3. 積極国家・行政国家現象の下で国家は巨大な情報主体となり、国家権力による情報操作の危険性、国家機密の増大が生じている。国民の知る権利は、それによって国家の専断を不断に監現する機能を有し、一定の歯止めをかける働きをもつ。

 

 

(3) 知る権利の法的性格

 知る権利は本来的には自由権であるが、複合的性格を有する。

① 自由権的性格(不作為請求権)

 国民が、情報を入手することを、国家によって妨げられない。

 知る権利の自由権的側面には具体的権利性がある。

② 社会権的性格(作為請求権)

 国家に対して積極的に情報の公開を要求する。

 知る権利の社会権的側面が具体的権利性を有するかについては争いがあるが、一般に抽象的権利と解されている。この意味での知る権利は、情報公開法等の具体的立法の制定を待ってはじめて具体的権利性を有することになり、裁判上の救済を受けることが可能となるのである。

cf. 1999(平成11)年に、情報公開法が制定された。地方公共団体レベルでは、情報公開条例が相当数制定されている。

③ 参政権的性格

 個人は様々な事実や意見を知ることによって、はじめて政治に有効に参加することができる。

 

 

(4) アクセス権

① アクセス権の意義

 アクセス権とは、一般に、情報の受け手である一般国民が、情報の送り手であるマス・メディアに対して、自己の意見の発表の場を提供することを要求する権利(マス・メディアに対する知る権利)と解されている。

② アクセス権の憲法上の根拠

 アクセス権を21条で保障するという見解もあるが、アクセス権は憲法上保障されないとするのが判例通説である。

[理由]

1. 国がマス・メデイアに思想情報の発表を強制することは、マス・メディア自身の出版・編集の自由等の表現の自由を侵害することになる。

2. 反論文掲載の負担が、批判的記事の掲載を抑制し、言論に対して萎縮効果をもたらすことになる。

 

 

判例

サンケイ新聞事件(最判S62.4.24

 

日本共産党を批判する自由民主党の意見広告を掲載したサンケイ新聞に対し、日本共産党が反論文の無料掲載を求めた事件。

 

《争点》

表現の自由に基づく、反論文の無料掲載請求は認められるか?

《判旨》

私人間において、当事者の一方が情報の収集、管理、処理につき強い影響力をもつ日刊新聞紙を全国的に発行・発売する者である場合でも、憲法21条の規定から直接に、反論文掲載の請求権が他方の当事者に生ずるものではないことは明らかというべきである。

反論権の制度が認められるときは、新聞を発行・販売する者にとっては、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用できたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであって、これらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。

POINT

 

1.  21条の規定から、直接に反論文の掲載請求権は生じない。

2. 具体的な成文法が制定されれば、反論権が認められる余地がある。

       

 

集会・結社の自由

(1) 集会の自由

 

判例

泉佐野市市民会館事件(最判H7.3.7

 

極左団体が、関西空港反対決起集会のために市民会館の使用許可を申請したところ、当該申請が、市立泉佐野市民会館条例71号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とされたことにつき、その不許可処分の違法が争われた事件。

 

《争点》

市民会館の使用不許可を定める本件条例は、集会の自由を侵害し違憲か?

《判旨》

公共施設の管理者が利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる場合に限られるべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがある。そして、制限が必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を衡量して決せられる。

本件条例71号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」という広義の表現を採っているとはいえ、右のような趣旨からして、本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。そう解する限り、このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法21条に違反するものではない。

POINT

 

1. 公の施設の集会のための利用は、必要かつ合理的な範囲で制限を受ける。

2. その制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、利益衡量によって決せられる。

3. その際、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見される必要がある。

4. 本件の場合、集会を許可することによって、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されるので、本件不許可処分は21条に反しない。

       

 

 

① 集会の自由の意義

 集会とは、特定または不特定の多数人が共同の目的をもって一定の場所に一時的に集まることをいう。

② 集会の自由の内容

 集会の自由は、次の2つの側面を有している。

(a) 目的、場所、公開性の有無、方法、時間等のいかんを問わず、集会を主催・指導し、または集会に参加するなどの行為について、公権力による制限や干渉を排除する。

cf. これを受けて地方自治法244条は、「公の施設」について、「正当な理由がない限り」住民に利用を拒否してはならないとし、また、「不利益な差別的取扱い」を禁止している。

(b) 道路、公園、広場、公会堂といった一定の公共施設を管理する公権力に対し、集会をもとうとする者が、公共施設の利用を要求できる。

cf. パブリック・フォーラム論

 パブリック・フォーラム論とは、アメリカ合衆国の判例理論で、表現活動のために公共の場所を利用する権利は、場合によっては、その場所における他者の利用を妨げることになっても保障されるとする理論である。

 この理論を明確に採用した最高裁判例はまだないが、私鉄駅構内でのビラ配布の規制が許されるかが争われた事件における最高裁判決(最判S59.12.18)の補足意見は、道路、公園、広場など、一般大衆が自由に出入りできる場所を「パブリック・フォーラム」と呼び、「パブリック・フォーラムが表現の場所として用いられるときには、所有権や、本来の目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、その機能にかんがみ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられる」としている。

③ 集会の自由の限界

 集会の自由は、多数人が集合することを前提とし、行動を伴うものであることから、他者の権利・利益と矛盾・衝突する可能性が大きい。そこで、道路や公園などの他の利用者の権利・利益との調整や、集会の競合による混乱の回避が必要になる。

cf. メーデー集会のための皇居外苑の使用を許可しなかった行政処分は表現の自由または団体行動権自体の制限を目的とするものではなく、公園の管理、保存の支障や公園としての本来の利用の阻害を考慮してなされたもので、憲法21条及び28条に違反するものではない(皇居外苑使用不許可事件・最大判S28.12.23

 

 

判例

上尾市福祉会館事件(最判H8.3.15

 

帰宅途中何者かに殺害された労働組合幹部の合同葬の会場として、市の福祉会館の使用許可が申請されたが、市は、この殺害事件が対立するセクトによる内ゲバ事件ではないかとの報道に照らし、混乱や不測の事態が生じうるとして使用不許可とした。

 

《判旨》

本件会館の使用不許可は、管理上の支障が生ずることを予測させるような特別な事情があったということはできないから、会館の使用不許可事由を定めた条例の解釈適用を誤った違法なものというべきである。

POINT

 

会館管理上の支障を理由とする利用拒否は、そのような事態の発生が、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予見される場合に限られるが、本件の場合、管理上の支障を予測させるような特別な事情があったということはできず、不許可処分は違法である。

       

 

 

④ 集団行動の自由

 

判例

新潟公安条例事件(最大判S29.11.24

 

警察署前での無許可集団行動が、新潟県公安条例違反とされた事件。

 

《争点》

集団示威行動の許可制を定める新潟県公安条例は、憲法21条に反するか?

《判旨》

行列行進又は公衆の示威運動(以下単にこれらの行動という)は、公共の福祉に反するような不当な目的又は方法によらないかぎり、本来国民の自由とするところであるから、条例においてこれらの行動につき単なる届出制を定めることは格別、そうでなく一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは憲法の趣旨に反し許されないと解するを相当とする。しかしこれらの行動といえども公共の秩序を保持し、又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、予め許可を受けしめ、又は届出をなさしめてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、これをもって直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものと解することはできない。また、これらの行動について公共の安全に対し明らかな差迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せず又は禁止することができる旨の規定を設けることも、直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限することにはならない。

POINT

 

1. 単なる届出制は格別、一般的な許可制は違憲である。

2. しかし、特定の場所・方法について、合理的かつ明確な基準のもとでの事前規制であれば許される。

3. 公共の安全に対し、明らかな差し迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、集団行動を禁止できる。

       

 

 

 デモなどの集団行動は、純粋な言論と異なり、一定の行動を伴うため、とくに他者の権利・自由との調整を必要とする。集団行動に対しては、公安条例により届出制ないし許可制といった事前規制がなされ、違反者には刑罰が科されるのが一般である。そこで、このような事前規制が21条に反しないかが問題となるが判例は一貫してこれを合憲としている。

cf. 表現行為の内容に関して事前規制が加えられる場合には検閲に該当する可能性があるが、表現の時・場所、方法に関する外形規制にとどまる限り、検閲にはあたらないとされる。

 

 

(2) 結社の自由

① 結社の自由の意義

 結社とは、共同の目的をもって、継続的に結合することをいう。

 ※ 結社の自由は、他の条文で重ねて保障されている揚合がある。

例:宗教団体→20条、労働組合→28

※ 政党の憲法上の根拠は、21条に求められる。

② 結社の自由の内容

 結社の自由の内容は次のとおりである。

(a) 団体を結成し、それに加入する自由(積極的結社の自由)

(b) 団体を結成しない、もしくは団体に加入しない自由(消極的結社の自由)

cf. ある種の職業団体(例:弁護士会、税理士会)が、加入強制を定めていることが、結社の自由を侵害しないかが問題となるが、当該職業の専門性・公共性を維持するために必要で、かつ、当該団体の目的が会員の職業倫理の向上や職務の改善等を図ることに限定されていることを理由に、合憲と解されている。

(c) 加入した団体から脱退する自由

(d) 団体が団体として活動する自由

③ 結社の自由の限界

 犯罪を行うことを目的とする結社は禁止されうる。