• 刑法(各論)ー8.公共の信用に対する罪
  • 1.通貨偽造の罪
  • 通貨偽造の罪
  • Sec.1

1通貨偽造の罪

堀川 寿和2022/02/10 14:19

通貨偽造の罪の総説

(1) 保護法益

通貨偽造の罪は、通貨に対する公共の信用を保護法益とするが、二次的には国家の通貨発行権(通貨高権)をも保護法益とする。(最S 22.12.17)したがって、本国に流通している内国通貨及び本国に流通している外国通貨を偽造すると通貨偽造罪となる

cf 内国通貨であっても外国で流通しているものや外国で流通している外国通貨を偽造しても通貨偽造罪とはならない。

 

(2) 種類

通貨偽造の罪の分類

通貨偽造の罪

通貨偽造罪偽造通貨行使罪(刑法148条)

外国通貨偽造罪・偽造外国通貨行使罪(刑法149条)

偽造通貨取得罪(刑法150条)

偽造通貨収得後知情行使罪(刑法152条)

通貨偽造準備罪(刑法153条)

 

通貨偽造罪(刑法148条1項)

 

刑法148条(通貨偽造)

1.行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。

 

(1) 構成要件

行使の目的で通用している貨幣・紙幣・銀行券を偽造又は変造することである。したがって強制通用力を有しない古銭や廃貨を偽造しても本罪にはあたらない。

主体

限定なし。

客体

通用の貨幣、紙幣、銀行券である。これらを総称して通貨という。

行為

行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造又は変造することである。銀行券とは、政府の認許により日本銀行が発行する貨幣代用の証券のことである。

(イ)偽造

通貨の発行権を有しない者が、一般人をして真貨と誤信させるような外観のものを造り出すことをいう。一般人に真貨と誤信させる程度に至らないもの造った場合は模造であって、「通貨及び証券模造取締法」の対象となる。

(ロ)変造

真貨に加工を施してその価値を変更することをいう。例えば、100円硬貨に数字及び文字に変更を加えて500円硬貨のように改ざんしたような場合がこれに当たる。

 

(2) 実行の着手時期

偽造•・変造に着手した時に実行の着手があったことになる。

 

(3) 既遂時期

偽造・変造目的物が完成することによって既遂となる。行使の目的で通貨の偽造を開始したが、一般人をして真正な通貨と誤認させる程度のものを作成できなかった場合は未遂となる。

 

(4) 行使の目的

真正な通貨として流通におく目的(行使の目的)が必要である。行使の目的がなければ通貨を偽造、変造しても本罪は成立しない。(ex 学校の教材にするため)したがって本罪は目的犯である。なお、行使の目的は自ら行使する目的に限らず、他人をして行使させる目的でも足りる。(最S34.6.30

 

(5) 刑罰

無期又は3年以上の懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法151条)

偽造通貨行使罪(刑法148条2項)

 

刑法148条(偽造通貨行使)

2.偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、もしくは輸入した者も、前項と同様とする。

 

(1) 構成要件

偽造・変造の貨幣・紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的でこれを人に交付もしくは輸入することである。

主体

限定なし。

客体

偽造・変造の貨幣、紙幣、銀行券である。

行為

行使、交付又は輸入することである。

(イ)行使

偽造・変造の通貨を真貨として流通に置くことである。流通に置いた時点で既遂となる。

cf 偽貨を渡された相手方が情を知っている場合には流通に置いたとはいえないので行使に当たらず、この場合は次の偽造通貨交付罪が成立する。

cf 贈与したり、両替した場合も行使となるが、偽造紙幣の札束を支払能力を示すために他人に見せた場合には行使に当たらない。流通に置いていないからである。

cf 偽造通貨を用いてペンダントを作り、贈与した場合、真貨として流通に置いたといえず、偽造通貨行使罪は成立しない。

 

判例

(東京高S53.3.22)

 

公衆電話に偽造通貨を投入した場合、偽造通貨行使となる。

自動販売機の場合も同様である。

 

判例

(大M41.9.4)

 

偽造通貨を賭博の掛け金とした場合も、偽造通貨行使となる。

行使の方法は違法であってもよい。

 

(ロ)交付

行使の目的をもって、偽造変造の事情を知っている者に偽貸を手渡すことをいう。(大M43. 3.10

(ハ)輸入

行使の目的で偽造.変造の通貨をわが国へ陸揚げすることをいう。

 

(2) 刑罰

無期又は3年以上の懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法151条)

 

(3) 罪数

通貨を偽造・変造した者が、さらにそれを行使した場合

通貨偽造罪と本罪との牽連犯となる。

偽貨を行使して財物を騙取した場合

本罪のみが成立し詐欺罪はこれに吸収され別罪を構成しない。(大M43. 6. 30)。偽貨の行使は一般に詐欺が伴い、本罪は詐欺罪より刑も重いことから別罪を構成しない。