• 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
  • 14.毀棄及び隠匿の罪
  • 毀棄及び隠匿の罪
  • Sec.1

1毀棄及び隠匿の罪

堀川 寿和2022/02/10 13:59

公用文書毀棄罪(刑法258条)

 

刑法258条(公用文書毀棄)

公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

 

(1) 構成要件

公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄することである。公用文書及び公用電磁記録の安全が保護法益であり、それを介して公務の円滑な遂行を図ろうとするものである。

主体

限定なし。

客体

公務所の用に供する文書又は電磁的記録である。ここでいう「公務所の用に供する文書」とは、現に公務所において使用され、又は公務所において使用の目的で保管されている文書をさす。

このような文書であれば、公文書であると私文書であるとを問わず、文書の所有者が誰であるかも問題ではない。(大S11.3.27)

「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識しえない方法で作られた記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。具体的には、記録の保存されたフロッピ一等がこれにあたる。

行為

毀棄することである。文書又は電磁的記録の本来の効用を害する一切の行為をさす。

(イ)物質的毀損

文書を破る、丸めて床に投げ捨てた(S32.1.29)、燃やした等。

(ロ)文書の抹消

文書の内容の一部を抹消した、署名・捺印を抹消した(大T11.1.27)等。

(ハ)文書の隠匿

文書や電磁的記録を隠匿し、利用を不能にする行為も本罪の毀損にあたるとされる。

(ニ)電磁的記録の毀損

テープやフロッピ一等を物理的に毀棄するのみならず、入力されたデータやプログラムの全部又は一部を消去する、他のデータやプログラムを入力して異なった記録とすること等がこれにあたる。

 

(2) 刑罰

3月以上7年以下の懲役。

 

私用文書毀棄罪(刑法259条)

 

刑法259条(私用文書毀棄)

権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処する。

 

(1) 構成要件

権利又は義務に関する他人の文書または電磁的記録を毀棄することである。本罪の保護法益は一定の文書がもつ物としての価値、効用である。

主体

限定なし。

客体

権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録である。

(イ)権利又は義務に関する文書

「権利又は義務に関する」文書とは、権利義務の存否、変更、消滅等を証明する文書をさす。

単なる事実証明に関する文書は本罪の客体ではない。単なる事実証明を毀棄した場合、後述する器物損壊罪となる。

(ロ)他人の文書

「他人の文書」とは、他人名義の文書という意味ではなく、「他人の所有に属する文書」である。自己が作成名義人であっても他人が所有している文書ならば本罪の客体となる。(大T10.9.24)したがって、例えば、他人に差し入れていた自己名義の借用証書を破り捨てた場合、自己が作成名義人であっても人に差し入れた以上、借用証は「権利義務に関する他人の文書」であり、私用文書毀棄罪がする。

(ハ)自己の文書の特例

自己の所有に属する文書、電磁的記録でも、差押えを受け又は物権を負担し、又は賃貸したものは他人の物と扱われ、本罪の客体となる。(刑法262条)質入れした自己の債権証書や賃貸した自己の電磁的記録等がその例である。

行為

毀棄することである。公文書毀棄罪と同様に文書又は電磁的記録の本来の効用を害する一切の行為をさす。

 

(2) 刑罰

5年以下の懲役。本罪は親告罪とされている。(刑法264条)

 

建造物損壊罪(刑法260条)

 

刑法260条(建造物損壊及び同致死罪)

他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害

の罪と比較して、重い刑により処断する。

 

(1) 構成要件

他人の建造物又は艦船を損壊することである。本罪は物件は価値の高い建造物や艦船をその客体とし、他の器物より厚く保護することにしている。

主体

限定なし。

客体

他人の建造物又は艦船である。

(イ)他人の

「他人の」とは、他人の所有に属するという意味である。

(ロ)建造物

「建造物」とは、家屋その他これに類する建築物であって、屋根があり、障壁又は柱によって支持され、土地に定着し、少なくともその内部に人が出入りできるものをいう(大T 3. 6.20)他人の建造物と艦船に限定され、電車や汽車等は客体となっていない。cf 放火罪 

電車や汽車を損壊した場合は、後述する器物損壊罪の客体となる。

(ハ)艦船

「艦船」とは、軍艦及び船舶をさす。

(二)自己物の特例

自己所有の建造物でも、差押えを受け、物権を負担し、又は賃貸したものは本罪の客体となる。

 

判例

(大M43.6.28)

 

竹垣は建造物ではないため、これを切り倒した場合、建造物損壊ではなく、器物損壊となる。

 

行為

損壊することである。ここでいう「損壊」とは、物の効用を損なう一切の行為をさす。

 

(2) 刑罰

5年以下の懲役。本罪は、親告罪とはされていない。損壊によって、人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 

判例

(最S41.6.10)

 

労働争議の闘争手段として、庁舍の壁、窓ガラス、扉、シャッター等に1回に4~500枚ないし2,500枚のビラを3回にわたり密接集中させ糊付け貼付させた場合は建造物の効用を減損するものと認められ、建造物の損壊にあたる。

 

cf

判例

(最S39.11.24)

 

駅長室の室内板壁に要求事項を墨書・印刷したビラ34枚を、ガラス窓や出入口のガラス戸に30枚を糊付けしても、それが比較的容易に現状に回復しうる程度のものであるときは本罪にはあたらない。