- 刑法(各論)ー4.私生活の平穏に対する罪
- 1.住居を侵す罪
- 住居を侵す罪
- Sec.1
■住居侵入罪の保護法益
住居侵入罪の保護法益については争いがあり次のような説に分類することができる。
① 旧住居権説(旧判例)
住居権者である家長の住居権が保護法益であるとされている説である。したがって、住居侵入罪でいうところの「侵入」とは、住居権者の意思に反してその者の住居に立ち入ることをさす。
② 平穏説(通説)
事実上の住居の平穏が保護法益とされている説である。したがって、住居侵入罪でいうところの「侵入」とは、平穏を害する態様での立ち入りをさす。
③ 新住居権説(最S58.4.8 現判例)
住居権を事実上の支配管理権と解し、住居侵入罪でいうところの「侵入」とは、事実上適法に住居を支配管理している者の同意に反して立ち入ることをさす。
※ 各説の差異
例えば、夫が単身赴任中に、妻が姦通目的で男を自宅に入れた場合、次のように結論が異なることになる。
① 旧住居権説(旧判例)
仮に夫が家長であると仮定して、住居権者である夫の意思に反して立ち入ることになるため、住居侵入罪成立する。
② 平穏説(通説)
住居の平穏を害する立ち入りではないことから、住居侵入罪成立しない。
③ 新住居権説(最S58.4.8 現判例)
事実上適法に住居を管理している妻の同意がある以上、住居侵入罪成立しない。
■住居侵入罪
刑法130条前段(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
(1) 構成要件
① 主体
限定なし。
② 客体
人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船。
(イ)人の住居
人の住居とは、起臥寝食に使用される場所をさす。その使用は、一時的である場合も継続的である場合を問わない。したがって、短期間滞在しているホテルの客室やキャンピングカーも起臥寝食に使用していれば、本条でいうところの住居にあたる。
また、住居とは他人の住居のことであり、行為者自身が同居している場合は他人の住居とはならないが、同居していなければ親族であったとしても他人の住居となり、仮に以前に同居していても共同生活から離脱した後は、他人の住居となる。
判例 |
(東京高54.5.21) |
|
|
住居の屋根も住居の一部である。 |
⇒ したがって、窃盗犯人が警察官に追われて他人の住居の屋根をよじ登って逃げた場合、住居侵入罪となる。
判例 |
(最S23.11.25) |
|
|
家出中の息子が強盗目的で共犯者を連れて実父の家に侵入した場合、本罪が成立する。 |
判例 |
(大T7.4.24) |
|
|
家出中の息子が窃盗目的で侵入した場合も本罪が成立する。 |
判例 |
(大T9.2.26) |
|
|
賃借人が賃貸借契約終了後も依然として立ち退かないため、家主が強制的に家財道具を運び出す目的で部屋に入った場合、本罪が成立する。 |
⇒ 住居は必ずしも適法な占有に限らない趣旨である。たとえ、不適法な占有であってもその住居の平穏は保護されるべきと考えるのである。
(ロ)人の看守する邸宅
住居以外の客体(人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船)は人の看守するものである必要がある。
ここでいう「人の看守する」とは、人が事実上管理・支配していることをさす。例えば、施錠してカギを保管したり、番人を置いて監視させるような場合がこれにあたる。
「邸宅」とは、住居として使用する目的で作られた建造物であって、現在住居として使用されていないものをいう。例えば、別荘や賃貸マンションの空室等がこれにあたる。
(ハ)人の看守する建造物
建造物とは、居住用(住居・邸宅)以外の建物をさす。例えば、学校、倉庫、工場、寺院等がこれにあたる。一方、ほら穴は建造物にあたらないため、例えば、窃盗犯が農作物が貯蔵してあるほら穴に侵入しても、本罪は成立しない。
判例 |
(最決H21.7.13) |
|
|
警察署庁舎建物とその敷地を他から明確に区別するとともに、外部からの干渉を排除する作用を果たしている塀は、庁舎建物の利用のために供されている工作物であるので、「建造物」の一部を構成し、外部から見ることができない敷地に駐車された捜査車両を見るため、当該塀によじ登って塀の上部へ上がった行為につき建造物侵入罪が成立する。 |
(ニ)人の看守する艦船
艦船とは、軍艦及び船舶をさし、その大きさを問わない。
③ 行為
正当な理由なく、人の住居もしくは人の看守する邸宅、建造物もしくは艦船に侵入することである。
* 無銭飲食や万引き目的等の違法行為を目的としてデパートや飲食店に立ち入る行為が住居侵入罪となるか否か
(イ)住居権説によると、住居侵入罪が成立する。
(ロ)平穏説によると、住居侵入罪が成立しないことになる。
判例 |
(大S5.8.5) |
|
|
訪問した家の応接間に通された者が家人に無断で次の間の寝室に立ち入った場合、住居侵入罪が成立する。 |
⇒ いったん有効な承諾があっても、それを超えた場合は、住居侵入罪が成立する。
↓ cf
判例 |
(最S58.4.18) |
|
|
同僚の家に泊めてもらい、翌朝に同僚の財布から現金を盗んだ場合は、窃盗罪のみで住居侵入罪は成立しない。 |
(2) 刑罰
3年以下の懲役又は10万円以下の罰金