• 刑法(総論)ー10.罪数論
  • 5.併合罪
  • 併合罪
  • Sec.1

1併合罪

堀川 寿和2022/02/10 11:11

併合罪の意義

(1) 意義

併合罪とは、同一犯が犯した確定判決を経ない数個の罪であり、同時審判が可能又は可能であった場合である。

ex)・ 保険金詐欺の目的で住宅に放火し焼損させた後に保険金を騙取した場合

    ⇒ 放火罪と詐欺罪は併合罪となる。

   人を殺して、死体を遺棄した場合

    ⇒ 殺人罪と死体遺棄罪は併合罪となる。

   恐喝するために監禁した場合

    ⇒ 監禁罪と恐喝罪は併合罪となる。

牽連犯としていた判例(大T15.10.14)を(最H17.4.14)で変更した。

 

判例

(最S49.5.29)

 

酒酔い運転中に運転を誤って歩行者を死亡させた場合には、業務上過失致死罪(自動車運転過失致

死罪)と道路交通法上の酒酔い運転罪との併合罪となる。

観念的競合とはならない。上記に対して、無免許で酒酔い運転をした場合は、道路交通法上の無免許運転罪と酒酔い運転罪は観念的競合である。

 

判例

(広島高判S30.6.4)

 

他人から財物を窃取する行為と禁制品を保持する行為とは、社会的見解上1個の行為と評価するこ

とはできず別個の行為であり牽連関係が認められないから窃盗罪と銃砲刀剣類所持罪とは併合罪

となる。

 

判例

(東京高判S38.7.25)

 

手形用紙を横領し手形を偽造した場合、客観的に目的・手段の関係にあるとは認められないため牽連犯とはならず、有価証券偽造罪と横領罪の併合罪となる。

 

(2) 牽連犯・観念的競合との違い

行為は数個、罪名も数個という点では牽連犯も併合罪も同じであるが、併合罪の場合、数個の行為が手段•結果の関係にない点で牽連犯と異なる。

また、併合罪は行為が数個である点で行為が1個である観念的競合と異なる。

 

併合罪の種類

次の2つの場合がある。

同時的併合罪

事後的併合罪

 

(1) 同時的併合罪(刑法45条前段)

被告人が、A罪B罪C罪を犯し、その全部について未だ確定判決を経ていないときは、A罪B罪C罪は併合罪となる。

 

(2) 事後的併合罪(刑法45条後段)

ある罪について、禁錮以上の刑に処す確定判決があったときは、その罪とその裁判確定前に犯された罪は併合罪となる。例えば、A罪を犯し、禁錮以上の刑が確定した場合、B罪についてはA罪についての判決確定前に犯されており、C罪については判決確定後に犯されていれば、A罪とB罪が併合罪となる。

 

      

併合罪の処断

併合罪の処断方法は、次の3つがある

併科主義

吸収主義

加重主義

 

(1) 併合罪の処断方法

併科主義

併合罪の関係にある各罪につき、それぞれ併せて執行する主義である。

吸収主義

各罪のうち、最も重い罪の刑によって処断する主義である。

加重主義

各罪の中で最も重い罪について定められた刑に一定の加重を施し、これによって処断する主義である。

 

(2) 現行刑法の主義

現行刑法は、加重主義を原則として、部分的に吸収主義と併科主義を採用している。

加重主義

(イ)2個以上の有期刑

a) 長期

併合罪中、2個以上の有期懲役又は禁錮に処すべき罪があるときは、その最も重い罪につき定めた刑の長期にその2分の1を加えたものをもって長期とする。つまり、最長期×1.5倍ということである。ただし、それぞれの罪につき定めた刑の長期の合計を超えることはできない。(刑法47条)

また、加重した長期についても30年を超えることができない。(刑法14条)

b) 短期

短期については定めがないため、最も重い罪の短期が他の罪の短期より短いときは重い方の短期によることになる。短期に2分の1を加える必要はない。

(ロ)2個以上の罰金

2個以上の罰金は、それぞれの罪について定められた罰金の多額の合計額以下で処断する。(刑法48条2項)下限については、各罪につき定められた額のうち最も重い金額による。

 

吸収主義

(イ)併合罪のうちの1個の罪について死刑に処するとき

他の刑を科さない。ただし、没収はこの限りでない。(刑法46条1項)

つまり死刑+懲役・禁錮・罰金・拘留・科料を重ねて課すことはできないということである。ただし、死刑+没収は可能である。

(ロ)併合罪のうちの1個の罪について無期の懲役又は禁錮に処するとき

他の刑を科さない。ただし、没収・罰金・科料はこの限りでない(刑法46条2項)

つまり無期懲役(無期禁錮)+有期懲役・有期禁錮・拘留を重ねて課すことはできないということである。ただし、無期懲役(無期禁錮)+没収・罰金・科料は可能である。

 

併科主義

併科するとは、判決主文において1個の刑として言い渡すことである。

ex)「被告人を懲役5年及び罰金10万円に処する。」

(イ)罰金と他の刑

罰金と他の刑とは併科する。ただし、併合罪のうちの1個の罪につき死刑に処するときはこの限りでない。(刑法48条1項)

(ロ)拘留又は科料と他の刑

拘留又は科料と他の刑とは併科する。ただし、そのうちの1個の罪につき死刑に処するときは拘留・科料はそれに吸収され併科されず、無期懲役・禁錮に処するとき拘留は吸収されるが、科料は併科される。(刑法53条1項、46条2項)

(ハ)2個以上の拘留又は科料

2個以上の拘留又は科料は併科する。(刑法53条2項)

(ニ)没収の併科

併合罪のうちの、重い罪について、没収を科さない場合であっても、他の罪について没収の事由があるときはこれを付加することができる。(刑法49条1項)2個以上の没収は併科する。(同条2項)