- 刑法(総論)ー7.責任論
- 4.故意
- 故意
- Sec.1
1故意
■故意の意義
(1) 意義
罪を犯す意思を故意という。
(2) 故意犯処罰の原則
刑法38条1項は、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」と規定し、犯罪の成立には原則として故意が要るものとする。例外的に「ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」として、故意がなく、過失しかない場合であっても、特別に過失犯処罰規定があればこれを処罰することができることにしている。
■故意の体系
故意は、構成要件的故意と責任故意に区別して考えられる。構成要件的故意が認められる場合であっても、責任の段階で責任故意の有無を検討しなければならず、いずれかを欠くと犯罪は不成立となる。
(1) 構成要件的故意
故意が成立するためには、まず行為者が犯罪事実、すなわち構成要件に該当する事実を認識することが必要である。逆にいうと、構成要件に該当する事実の認識を欠くとき故意は成立しないことになる。例えば、他人の傘を自分の傘だと思って持ち帰った場合、他人の財物を窃取しという窃盗罪の構成要件にあたる事実を認識していないことから、窃盗の故意はなく、窃盗罪は成立しないということになる。
(2) 責任故意
責任故意とは、違法性を基礎づける事実の認識をいう。例えば、急迫不正の侵害がないのにそれがあると誤信して攻撃を加えた誤想防衛の場合、違法性を基礎づける事実の認識がないことから、責任故意が失われ故意犯は不成立となる。あとは、過失の処罰規定があれば過失犯の成立の問題となる。なお、責任故意の内容として違法性の意識が必要か否かについては争いがある。
① 故意説
違法性の意識は故意の要件であると考える説である。
cf 違法性の意識は故意の要件としない責任説と比較!
故意説は、故意があるといえるためには、違法性の意識が必要か否かでさらに3つの説に分類される。
故意説 |
故意の成立に違法性の意識が不要 |
違法性の意識不要説(S32.10.18) |
故意の成立に違法性の意識が必要 |
違法性の意識必要説 |
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違法性の意識可能性説(S62.7.16) |
(イ)違法性の意識不要説
故意の成立に違法性の意識は必要がないと考える説である。
(ロ)違法性の意識必要説(厳格故意説)
故意の成立に違法性の意識は必要であると考える説である。違法性の意識があるということは、自己の行為が悪いことだという意識があることであり、にもかかわらずあえて行為に出たところに故意として重い非難が課せられる根拠があるとする。違法性の意識を欠くときは過失にすぎないとする。
(ハ)違法性の意識可能性説(制限故意説)(通説、一部判例)
違法性の意識はなくてもよいが、違法性の意識の可能性は必要であると考える説である。つまり、故意は違法性の意識の可能性があれば成立すると考える。
判例 |
(最決H2.2.9) |
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知人から化粧品であると言われ、海外から日本国内に持込みを依頼された者が、中身が覚せい剤かその他の身体に有害で違法な薬物かもしれないと思いながら、依頼に応じて日本国内に運んだ場合、故意が認められ、覚せい剤取締法違反(輸入)罪が成立する。 |
② 責任説
違法性の意識は故意の問題ではなく、故意とは別の責任要素であるとする考え方である。違法性の意識は故意とは関係ないと考える説である。この説によると違法性の意識は故意とは別の責任要素であると考える。違法性の意識の存否にかかわらず、事実の認識があれば故意は成立することになる。ただし、違法性の意識可能性を全く欠く場合、つまり悪いと思う可能性が全くなければ故意があっても責任が阻却されるとする。
■未必の故意
(1) 意義
未必の故意とは、通説である認容説によると、罪となる事実を発生させようとする積極的な意思はないが、その発生の可能性を認識し、かつその発生を認容していた場合をいう。例えば、狭い道を車で走行中、もしかすると前方にいる歩行者をはねるかもしれないとしれないと認識しながら、それでも構わないと思って走行を続け、ケガをさせたような場合、傷害の積極的故意はないが未必の故意はあることになる。
(2) 故意と過失の区別
未必の故意と認識ある過失は、結果発生の可能性を認識している点で共通しているが、認容しているか否かで区別される。
車の運転中、前方に歩行者がいる。はねるかもしれない。
故意 過失
確定的故意
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未必の故意 |
認識ある過失 |
認識なき過失 |
「殺してやろう」 「かまわない」 「大丈夫」 「気づいていない」
有 ← 認容 → 無