• 刑法(総論)ー5.因果関係
  • 1.因果関係
  • 因果関係
  • Sec.1

1因果関係

堀川 寿和2022/02/10 10:08

意義

因果関係とは、構成要件に該当する実行行為と構成要件に該当する結果との間に必要とされる一定の原因・結果の関係をいう。例えば、Aが殺意をもってBをピストルで撃ったが、弾がそれて当らなかったが、その直後に発生した地震でBが死亡したような場合、Aの行為とBの死亡の結果との間には因果関係はないため、殺人罪の構成要件には該当しないことになる。この場合、Aには殺人未遂罪が成立することになる。

条件関係

因果関係があるというためには、まず条件関係が認められることが必要である。条件関係とは、その行為がなかったならば、その結果が生じなかったであろうという関係をいう。

例えば、先述のAが殺意をもってBをピストルで撃ったが、弾が外れて当らなかったが、その直後に発生した地震でBが死亡したような場合という場合、Aの行為がなくてもBは死亡したといえるので、条件関係は認められない。

それに対し、Aが殺意をもってBをピストルで撃って負傷させたが、命に別条はなかった。しかし、運ばれた病院で処置を受けている際に、地震が発生して死亡したような場合、Aの行為がなければ病院で死亡することもなかったと言えることから、Aの行為とBの死亡の結果の間には条件関係が存在することになる。

因果関係学説

条件関係が認められれば、それだけで因果関係があると判断してよいのであろうか。この点について、どのような基準で決定していくのかについての議論が因果関係学説である。

 

(1) 条件説

意義

その行為がなかったならば、その結果は生じなかったであろうという条件関係さえあれば、因果関係があるとする説である。例えば、先述のピストルで撃たれて負傷し、運ばれた病院で処置を受けている際に、地震が発生して建物が倒壊して死亡したような場合には、ピストルで撃たれなければ病院に行くこともなく、Aの行為とBの死亡の結果との間に因果関係が認められることになる。この説は、因果関係の存否を極めて平易に、客観的・一義的に確定できるメリットがある半面、因果関係が肯定される範囲が広すぎると批判される。

因果関係の中断論

そこで、条件説の弱点を補うため、そこで、条件関係が認められる場合であっても、因果関係の進行中に、自由かつ故意に基づく第三者の行為又は自然力が介入した場合に、因果関係を否定する見解(因果関係の中断論)もある。したがって、搬送先の病院で地震が発生して死亡した場合には、因果関係は中断し、Aは殺人罪ではなく殺人未遂罪にとどまることになる。

しかしこの説は、条件関係があるとしながら、因果関係を否定するものであって、結局は条件説の否定であると批判され、あまり支持されていない。なお、この因果関係の中断論でも、第三者の過失行為では因果関係は中断しないため、例えば、病院で運ばれる途中で第三者の過失による事故で死亡したような場合には、Aは殺人罪となる。

 

(2) 相当因果関係説

条件関係が存在することを前提に、社会生活上の経験に照らして、通常、その行為からその結果が発生することが一般的であり、相当であると認められる場合に因果関係を認める立場である。

搬送先の病院で地震が発生して死亡した場合には、Aの行為とBの死亡の間には条件関係は認められるものの、相当性は認められず、Aの行為とBの死亡の間には因果関係が認められないことになる。

 

因果関係の有無