• 刑法(総論)ー4.行為
  • 2.不作為犯
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  • Sec.1

1不作為犯

堀川 寿和2022/02/10 10:04

作為犯と不作為犯

作為犯とは「何かをする」という作為によって犯す犯罪であり、不真正不作為犯とは「何かをしない」という不作為によって犯す犯罪である。例えば、人を殴ったり、火をつけたりするのが作為で、乳児にミルクを与えず、餓死させるような場合が不作為である。前者のように犯罪が作為によって実現される場合が「作為犯」、後者のように不作為によって実現される場合が「不作為犯」である。

 

不作為犯の種類

不作為犯は、次の2つに分類することができる。

1.真正不作為犯

2.不真正不作為犯

 

(1) 真正不作為犯

真正不作為犯とは、構成要件が不作為の形で規定されている犯罪を不作為で実現する場合をいう。

例えば、不退去罪(刑法130条後段)のように、不作為が規定されて作為義務が前提となっているため、不作為があれば、やらないことに実行行為性が認められることになる。

「~しなかったら処罰する」

 

(2) 不真正不作為犯

不真正不作為犯とは、構成要件が作為を予定して規定されている犯罪を不作為によって実現する場合をいう。例えば、母親が乳児を殺そうとして授乳しないままして餓死させたような場合である。授乳しないという不作為は、死に至らせる危険性が当然に予想され、人を殺す作為と同視することができ、実行行為性が認められるからである。

不真正不作為犯の成立要件

不作為犯が成立するためには、当該構成要件が作為によって実行されるのと等しい作為との同価値性をその不作為がもっていなければならない。したがって、不作為が作為によって、その事実を生じさせたと同じであるといえるためには、少なくとも次の要件を必要とする。

・作為義務が存在すること

・作為義務を行うことが可能かつ、容易であること

 

(1) 作為義務の存在

不作為犯は、なすべきことをしないことであることから、一定の作為をすべき作為義務がなければ、不真正不作為犯は成立しない。

法的義務

ここでいう作為義務は、法的義務でなければならず、道徳的義務は含まない。

例えば、親は自分の子が溺れている場合、救助義務があるが、他人であれば法的に救助義務はないことになる。

 

判例

(大T6.11.24)

 

母親が新生児を砂中に埋めて窒息死させ、死体をそのまま放置して離れ去った場合は、不作為による死体遺棄罪(刑法190条)が成立する。

母親は、自分の子について法令上の埋葬義務を負うからである。なお、この事例の場合、殺人罪(刑法199条)が成立することはいうまでもない。

 

判例

(大T13.3.14)

 

被告人が木炭製造中であった炭焼きがまの中に少年(他人の子)が落ち込み焼死したことを知りながら死体を搬出せず、逆に少年の落ちた穴を鉄板でふさぎ、その上に土砂をかぶせて放置しても、死体遺棄罪は成立しない。

⇒母親と異なり、他人である炭焼人には葬祭義務がないからである。

 

作為義務の発生原因

(イ)法令

法令によって特定の者に一定の作為義務が課されている場合である。

(ロ)契約・事務管理上の根拠

契約や事務管理によって作為義務が発生する場合である。

例えば、ベビーシッター等の契約によって養育を引き受けた者が必要な保護をせずに、要保護者を死亡させた場合、殺人罪が適用されることになる。また、契約ではなく好意によって急病人を保護した者にも、事務管理上の保護義務が発生し、その後放置したことによって急病人が死亡したような場合、同様に殺人罪が適用され得る。

(ハ)慣習・条理

a) 慣習による作為義務

例えば、雇主は同居の雇人が病気になったときは適当な保護を与える慣習上の義務があり、怠れば保護責任者遺棄罪が成立する。(大T 8. 8.30)

b) 信義則による作為義務

抵当権の付いた不動産の売主は買主にその旨を告知する義務があり、告げなかった場合、不作為による詐欺罪が成立し得る。(大T 4. 3.7)

c) 先行行為による作為義務

自己の行為によって結果発生の危険を生じさせた場合、その危険を防止すべき義務を負う。

例えば、たき火をした者は燃え移るのを防止すべき義務を負うため、家に燃え移る危険を知りながらそのまま立ち去ったところ、火が燃え移って家が全焼した場合には、不作為による現住建造物放火罪(刑法108条1項)が成立し得る。

また、トラックを運転中に過失によって線路に積み荷を落下さけた運転手は、通報するなど往来の危険を除去すべき義務を負うため、そのまま放置した場合は、不作為による往来危険罪(刑法125条1項)か成立する。

 

判例

(最S33.9.9)

 

自己の過失により出火させた者は消火すべき義務を負うため、延焼の危険を知りながら放置し、事務所を全焼させた場合には、不作為による放火罪(刑法108条)が成立する。

 

d) 有者・管理者の地位に基づく作為義務

所有者又は管理者であることによって作為義務が課されることがある。

 

判例

(大T7.12.18)

 

家屋の占有者又は所有者は、その家屋から出火したときはそれを消し止める作為義務があり、それを怠れば放火罪が成立する。(大T 7.12.18)

 

(2) 作為義務の可能性と容易性

不真正不作為犯が成立するためには、作為義務を行うことが可能かつ容易な場合でなければならない。