- 刑法(総論)ー1.近代刑法の基本原則
- 2.罪刑法定主義の派生原則
- 罪刑法定主義の派生原則
- Sec.1
1罪刑法定主義の派生原則
この罪刑法定主義の意味や内容から導き出される原則、罪刑法定主義の派生原則といい、まず次の4つが挙げられる。
1.慣習刑法の排斥 2.刑罰法規の不遡及 3.類推解釈の禁止 4.絶対的不定期刑の禁止 |
■慣習刑法の排斥
(1) 意義
刑法の法源となり得るのは成文の法律に限られ、慣習法によって人を処罰することが許されないとする原則をいう。
(2) 趣旨
犯罪と刑罰が法定されねばならないという主義が罪刑法定主義の内容であることから、存在も内容も不明確な慣習によって処罰できるとすると人権が守られないおそれがあるからである。
① 法律主義
ここでいう法律は、国家が定める形式的意義の法律を意味する。
② 政令と罰則
法律による委任があれば政令で罰則を定めることもできる。(憲法73条6号)法律による具体的委任があれば、なお法律によって犯罪と刑罰が定められたといえるからである。
③ 条例と罰則
条例で罰則を定めることもできる。(最S37. 5.30)条例は地方議会で定められるものであって、法律に類するものだからである。
(3) 慣習法の補充的機能
罪刑法定主義は、構成要件の意味内容が慣習や条理で確定されることまで否定するものではない。(福岡高S34. 3.31)法律主義は専ら慣習法だけで処罰することを禁止する趣旨だからである。
罪刑法定主義の派生原則
慣習刑法の排除 (法律主義) |
犯罪と刑罰は法律の形式により規定することを要し、刑法の法源として慣習法を認めないとする原則。ただし構成要件の内容の解釈又は違法性の判断において慣習を考慮することは許される。 |
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類推解釈の禁止 |
刑事法規を被告人の不利に類推適用してはならないという原則。 被告人に有利な類推解釈、拡張解釈、縮小解釈は許される。 |
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刑罰法規不遡及の原則 (事後法の禁止) |
刑罰法規は、その施行の時以降の犯罪に対してのみ適用され、施行前の行為に遡ってこれを適用してはならないという原則 |
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絶対的不定期刑の禁止 |
刑期の上限も下限も定めない懲役・禁固などの自由刑は法律でこれを規定することも裁判官が言い渡すことも許されないという原則 |
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刑罰法規適正の 原則 |
明確性の原則 (*1) |
刑罰法規は、いかなる行為を処罰の対象とするものであるかを一般国民が判断できる程度に、明確に規定されていなければならない原則 |
罪刑均衡の原則 |
刑罰はその犯罪に均衡した適正なものであることを要するという原則 |
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当罰性の原則 |
刑罰法規は、真に処罰に値する行為を犯罪としなければならないという原則 |
(*1)明確性の判断基準 (最S50.9.10)
刑罰法規が明確性を有するか否かは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによって決定すべきである。刑罰法規が曖昧で不明確な場合には、憲法31条に違反してその法規は無効とされる。(刑罰法規の明確性の原則)
■遡及処罰の禁止の原則(刑罰法規不遡及の原則)
(1) 意義
遡及処罰の禁止とは,刑法はその施行の時以後の犯罪に対して適用され、施行前の犯罪に対し、遡って適用されることはないという原則をいう。
(2) 趣旨
罪と刑はあらかじめ定められていなければならないというのが罪刑法定主義の要請であることから刑罰法規の遡及を認めることはこの原則に反することになる。適法だと思って行為したところが、あとでその行為が犯罪とされ、処罰されることになると人権は守られないからである。
(3) 例外
刑罰法規の遡及を禁止する趣旨は人権確保のためであることから、刑が軽く変更された場合や廃止された場合には、例外的に刑罰法規の遡及適用が許される。刑法6条は、「犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。」としており、行為時の法律より、裁判時の法律の方が刑が軽くなった場合、軽い裁判時法を遡って適用してよいことになる。さらに、犯罪後刑が廃止されたときは処罰もできない。廃止は軽くなった最たるものであり、それを遡及適用した結果である。
なお、これらは罪刑法定主義の考え方をより進めたものであって、罪刑法定主義の要請そのものではないことから、行為時の重い刑で処罰しても罪刑法定主義に反することにはならない。
①の場合、原則どおり刑罰法規は行為時に遡及しない。
②(重く変更された)の場合も、原則どおり刑罰法規は行為時に遡及しない。
③(軽く変更された)の場合、刑法6条によって新しい法律を行為時に遡及させて適用することができる。
④の場合、裁判時には処罰する根拠法がなくなっているため刑法6条は適用されることはないが、刑事訴訟法上、処罰されないこととされている。
(4) 罪刑法定主義と一事不再理の関係
憲法39条は、「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、形事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任は問われない。」としている。
罪刑法定主義の要請とこの憲法39条(一事不再理)の規定の効果は区別される。したがって、既に無罪とされた行為について再び刑事上の責任を問われないのは、罪刑法定主義の要請ではない。
■類推解釈の禁止
(1) 意義
刑法の解釈に類推が認められないとする原則である。なお、類推とは、異なる2つ以上の事柄の間に共通する要素を見出し、これを理由として1つの事柄に当てはまることは他の事柄にも当てはまると推論することをいう。
(2) 例外(類推解釈が許される場合)
被告人に有利な類推解釈は例外的に許される。
(3) 拡張解釈、縮小解釈の許容
類推解釈は禁止されるが、拡張解釈は許される。拡張解釈は、法文の語義を拡大するに止まるため、行為者の予測可能性を損なわず、罪刑法定主義に反しないからである。一方、類推解釈は本来刑法が予定していない事態にもその法規を適用して処罰することになるため、行為者の予測可能性を損ない、あらかじめ法文で明確に罪刑を決めておこうという罪刑法定主義に反することになるからである。なお、縮小解釈は被告人に有利だから許される。
(ex)刑法129条の過失往来危険罪について、そこにいう汽車にはガソリン・カーも含む。(大S15. 8.22)。拡張解釈の例とされている。動力が石炭か電気かガソリンかの違いがあるだけであり、ガソリン・カーを汽車の中に含めて解釈することは不可能ではない。これに対し、汽車の中にバスも含め、バスも汽車であると解釈することは、汽車という言葉の意味を超え、法律に規定なき事項に法律を適用することになり、類推であって許されない。
刑法129条1項(過失往来危険罪)
過失により、汽車、電車もしくは艦船の往来の危険を生じさせ、又は汽車もしくは電車を転覆させ、もしくは破壊し、もしくは艦船を転覆させ、沈没させ、もしくは破壊した者は、30万円以下の罰金に処する。