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1司法書士の業務

堀川 寿和2022/02/08 14:30

司法書士の使命および職責

(1) 司法書士の使命

 司法書士は、司法書士法の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする(法1条)。

 

(2) 司法書士の職責

 司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令および実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない(法2条)。

 

Point 司法書士の職責の規定に違反した場合は、司法書士法に違反することになるので、懲戒処分の対象となる。

司法書士の業務

 司法書士は、司法書士法の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次の事務を行うことを業とする(法31項)。

 

(1) すべての司法書士が行うことができる業務

 すべての司法書士は、次の①~⑤の業務〔法311号~5号〕を行うことができる。

登記または供託に関する手続について代理すること1号)。

法務局または地方法務局に提出し、または提供する書類または電磁的記録を作成すること〔④の事務を除く。〕(2号)。

法務局または地方法務局の長に対する登記または供託に関する審査請求の手続について代理すること3号)。

裁判所もしくは検察庁に提出する書類または筆界特定の手続(不動産登記法62節の規定による筆界特定の手続または筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。)において法務局もしくは地方法務局に提出しもしくは提供する書類もしくは電磁的記録を作成すること〔以下、「裁判所等に提出する書類等を作成する事務を行う業務」という。〕(4号)。

①~④の事務について相談に応ずること5号)。

 

Point1 法務局または地方法務局の長に対する審査請求の手続であっても、「登記」または「供託」に関するものであれば、司法書士が代理することができる〔上記③参照〕。

Point2 「裁判所に提出する書類」の「裁判所」には「最高裁判所」も含まれるので、すべての司法書士は、最高裁判所に提出する上告状を作成する事務を行う業務を受任することができる〔上記④参照〕。

Point3 司法書士は、登記申請の依頼を受けなくても、登記手続に関する相談に応じることができる〔上記⑤参照〕。

 

(2) 「認定司法書士」に限り行うことができる業務〔簡裁訴訟代理等関係業務〕

 次の①~③の業務〔法316号~8号〕(以下「簡裁訴訟代理等関係業務」という。)は、「認定司法書士に限り行うことができる(法32項)。

簡易裁判所における次の手続について代理すること6号)。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定または命令に係るものを除く。)、再審および強制執行に関する事項((e)の手続を除く。)については、代理することができない(同号ただし書)。

(a) 民事訴訟手続

 民事訴訟法の規定による手続(b)の手続および訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であって、訴訟の目的の価額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないもの6号イ)

(b) 訴え提起前の和解(即決和解)・支払督促

 民事訴訟法の規定による和解の手続〔民事訴訟法275条〕または支払督促の手続〔民事訴訟法7編〕であって、請求の目的の価額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないもの6号ロ)

(c) 証拠保全手続・民事保全手続

 民事訴訟法の規定による訴えの提起前における証拠保全手続〔民事訴訟法247節〕または民事保全法の規定による手続であって、本案の訴訟の目的の価額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないもの6号ハ)

(d) 民事調停手続

 民事調停法の規定による手続であって、調停を求める事項の価額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないもの6号ニ)

(e) 少額訴訟債権執行の手続

 民事執行法の規定による少額訴訟債権執行の手続〔民事執行法2242目〕であって、請求の価額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないもの6号ハ)

民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であって紛争の目的の価額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないものについて、相談に応じ、または仲裁事件の手続もしくは裁判外の和解について代理すること7号)。

筆界特定の手続であって対象土地(不動産登記法1233号に規定する対象土地をいう。)の価額として法務省令で定める方法により算定される額の合計額の2分の1に相当する額に筆界特定によって通常得られることとなる利益の割合として法務省令で定める割合を乗じて得た額が140万円〔裁判所法3311号〕を超えないものについて、相談に応じ、または代理すること8号)。

 

Point 「認定司法書士」ではない司法書士は、裁判所に提出する書類を作成するための相談に応じることはできるが〔上記(1)⑤〕、簡易裁判所における手続を代理することができないだけではなく〔上記(2)①〕、民事に関する紛争であって紛争の目的の価額が140万円を超えるものについては、相談に応じることもできない〔上記(2)②〕

 

【参考】認定司法書士

 「認定司法書士」とは、次のいずれにも該当する司法書士をいう(法321号~3号)。

① 簡裁訴訟代理等関係業務について法務省令で定める法人が実施する研修であって法務大臣が指定するものの課程を修了した者であること(1号)。

② ①に規定する者の申請に基づき法務大臣が簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有すると認定した者であること(2号)。

③ 司法書士会の会員であること(3号)。

 

(3) 業務範囲の制限

 司法書士は、上記(1)および(2)の業務〔法31項に規定する業務〕であっても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、これを行うことができない。

 

Point たとえば、「不動産の表示に関する登記の申請手続についての代理」は土地家屋調査士が行うことができる業務であり(土地家屋調査士法312号)、土地家屋調査士でない者はすることができない(土地家屋調査士法681項)。ただし、司法書士であっても、登記簿の表題部に記載された所有者の表示の変更および更正の登記の申請代理の依頼を受けることはできる。

司法書士が業務を行い得ない事件

 司法書士の業務〔上記■2〕に該当するものであっても、次の事件については、司法書士はその業務を行ってはならない。

 

(1) すべての司法書士を対象とするもの

① 全面的に業務を行うことが禁止される場合〔公務員として職務上取り扱った事件等〕

 司法書士は公務員として職務上取り扱った事件および仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、その業務を行ってはならない(法221項)。

 

Point1 すべての司法書士を対象として、公務員として職務上取り扱った事件について業務を行うことは、全面的に禁止されている。これは、国や行政庁の利益、司法書士の品位・信用を確保することを目的としている。

Point2 この規定に違反しても罰則の対象とはならないが、懲戒処分の対象となる(47条)。

 

② 「裁判書類作成関係業務」を行うことが禁止される場合

 司法書士は次に掲げる事件については、「裁判書類作成関係業務」〔314号および5号(同項4号に関する部分に限る。)に規定する業務〕を行ってはならない(法2221号~3号)。これは、依頼者の利益が、相反する結果となるからである。

 

(a) 相手方の依頼を受けて裁判所等に提出する書類等を作成する事務を行う業務」〔法314号に規定する業務(上記■2(1)④)〕を行った事件1号)

 

 

Point1 司法書士Aが、Xの依頼を受けてYを相手方とする訴えの訴状を作成した場合、Aは、Yの依頼を受けて、当該訴状を作成した事件についての答弁書を作成し、またはその相談を受ける業務を行うことはできない。

Point2 この規定は、司法書士法人の社員である司法書士が司法書士法人の担当者として「裁判書類作成関係業務」を行う場合も禁止している。たとえば、司法書士Aが、司法書士法人Sの社員となる前に、個人としてXの依頼を受けてYを相手方とする訴えの訴状を作成していた場合には、当該訴状を作成した事件について司法書士法人SがYから「裁判書類作成関係業務」を受任したとしても、社員であるAが担当することはできない。

Point3 司法書士が訴状の作成の依頼を受けて取り扱った事件であっても、当事者間で和解が成立した場合に、その和解内容を実現する行為〔登記申請の代理や文書の作成など〕について相手方から依頼を受けることはできる。和解により紛争は解決しており、その後に和解内容を実現する行為は債務の履行にすぎないので、利益相反の問題が生じないからである。

 

(b) 司法書士法人(*)の社員または使用人である司法書士としてその業務に従事していた期間内に当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて裁判所等に提出する書類等を作成する事務を行う業務」〔法314号に規定する業務(上記■2(1)④)〕を行った事件であって自らこれに関与したもの2号)

 

* 司法書士法人とは、司法書士の業務(簡裁訴訟代理等関係業務を除く。)〔法311号から5号までに規定する業務(上記■2(1))〕を行うことを目的として、司法書士法〔法5章〕の定めるところにより、司法書士が設立した法人をいう。

 

(c) 司法書士法人の使用人である場合に、当該司法書士法人が相手方から簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件3号)

Point 供託に関する手続について代理する業務は、法222項による規制対象とはされていない。したがって、たとえば、司法書士(または司法書士法人)が、供託者を代理して弁済供託の手続をしていたとしても、当該供託の被供託者から供託物払渡請求権の確認訴訟に係る裁判書類の作成について依頼を受けることができる。

 

(2) 認定司法書士を対象とするもの

① 「裁判書類作成関係業務」を行うことが禁止される場合

 「認定司法書士」〔法32項に規定する司法書士〕は、次の事件については、裁判書類作成関係業務を行ってはならない(法223項)。ただし、(c)および(f)〔法2233号・6号〕の事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない(同項ただし書)。

 

(a) 簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、またはその依頼を承諾した事件(1号)

Point 「協議を受けて賛助し」とは、協議を受けた具体的事件について、相談者が希望する一定の結論または利益を擁護するための具体的な見解を示したり、法律的手段を教示し、または助言することをいう。

 

(b) 簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度および方法が信頼関係に基づくと認められるもの(2号)

 

(d) 司法書士法人の社員または使用人である司法書士としてその業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が、簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、またはその依頼を承諾した事件であって、自らこれに関与したもの4号)

(e) 司法書士法人の社員または使用人である司法書士としてその業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度および方法が信頼関係に基づくと認められるものであって、自らこれに関与したもの5号)

(f) 司法書士法人の使用人である場合に、当該司法書士法人が簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件(当該司法書士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件(6号)

 

 ただし、受任している事件の依頼者が同意した場合を除く(法223項ただし書)。

② 「簡裁訴訟代理等関係業務」を行うことが禁止される場合

 認定司法書士」〔法32項に規定する司法書士〕は、上記(1)②〔法222項各号〕および上記(2)①〔法223項各号〕の「裁判書類作成関係業務」を行うことが禁止されている事件については、簡裁訴訟代理等関係業務を行ってはならない(法224項前段)。ただし、(2)(c)および(f)〔法2233号・6号〕の事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない(法224項後段、223項ただし書)。