- 供託法ー13.供託物払渡請求権の消滅時効
- 1.供託物払渡請求権の消滅時効
- 供託物払渡請求権の消滅時効
- Sec.1
1供託物払渡請求権の消滅時効
■時効による供託手続の終了
供託物払渡請求権も時効によって消滅する。したがって、供託物の還付請求権と取戻請求権の両方の時効が完成すると、供託関係は消滅し、供託手続は終了することになる。供託所はその後、当該供託金についての払い渡しはできなくなり、時効による歳入納付の手続をとる。なお、消滅時効が完成した供託金はその完成時に国庫に帰属するので、歳入納付の手続前においても払渡しを受けることはできない。
■供託金払渡請求権の消滅時効
(1) 時効消滅の期間
供託金払渡請求権の消滅時効期間が何年かについては争いがある。これは供託の法的性質をいかに捉えるかによって差異がある。
供託は第三者のためにする寄託契約であるため、私法上の法律関係であるとする説(私法関係説)に立てば、供託金払渡請求権の消滅時効期間は民法166条1項により債権者が権利を行使することができることを知った時〔主観的起算点〕から5年または権利を行使することができる時〔客観的起算点〕から10年となる。
一方、供託所は国家機関であることから、供託関係を公的関係と捉える説(公法関係説)によると消滅時効期間は会計法30条により、権利を行使することができる時〔客観的起算点〕から5年となる。
判例は、私法関係説の立場を採用しており、実務も供託の種類を問わず供託金払渡請求権の消滅時効期間を民法166条1項により債権者が権利を行使することができることを知った時〔主観的起算点〕から5年または権利を行使することができる時〔客観的起算点〕から10年とする。
先例 |
(昭4.7.3民事5618号) |
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供託金の取戻請求権および還付請求権の消滅時効については民法を適用すべきであり、いずれも権利を行使し得る日から10年である。 |
(2) 消滅時効の客観的起算点
上記のとおり、供託金払渡請求権の消滅時効の起算点には主観的起算点と客観的起算点があるが、このうち客観的起算点である「権利を行使できる日」がいつかが問題となる。具体的には、供託の種類や取戻し・還付の別によって異なることになる。
① 弁済供託
a) 受領拒否
かつての供託実務は、弁済供託について、被供託者はいつでも還付請求でき、供託者は被供託者が供託を受諾し、または供託を有効とする確定判決があるまでは、供託により質権、抵当権が消滅した場合を除いて、いつでも取戻請求をすることができるため、供託金払渡請求権の消滅時効の起算点を供託の時としていた(昭7.6.21民甲597号)。そして、反対給付の条件を付した供託については、還付請求権の行使と反対給付とが同時履行の関係にあるため、反対給付の履行がされた時が還付請求権の消滅時効の起算点としていた(昭2.7.19民事6063号)。
しかし、賃借権の存否という弁済供託の基礎となった事実をめぐり争いがあるような場合、当事者のいずれかが払渡しを受けることは、相手方の主張を認め、自己の主張を撤回したものと解されるおそれがあり、紛争が解決するまではいずれの当事者も払渡しを受けることは事実上不可能に近いため、現在の判例は、供託の基礎となった紛争が解決するなどして、供託当事者の権利行使が現実に期待できる時から10年で時効が完成するとし(最昭45.7.15)、実務もこれに従うことになった(昭45.9.25民甲4112号)。
先例 |
(昭45.9.25民甲4112号) |
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弁済供託における払渡請求権の消滅時効は、供託の基礎となった事実関係をめぐる紛争が解消する等により、供託当事者において払渡請求権の行使を現実に期待することができることとなった時点から進行する。供託後10年以上経過している弁済供託金につき払渡請求があった場合には、供託書その他供託法令所定の書類により時効の起算点を知り得る場合で消滅時効が完成していると認められるものを除き、これを認可して差し支えない。 |
b) 受領不能、債権者不確知の場合
(イ)従来の判例・実務
上記の判例・通達は、供託当事者間に紛争があり、供託者が事実上供託物の払渡しを受けることができない場合(受領拒否)に関するもので、受領不能や債権者不確知の場合については明らかでなかった。そのため、受領不能を原因とする弁済供託(昭60.10.11民四6428号)、相続人不明による債権者不確知による弁済供託(平4全国会同決議)については、引き続き供託の日が起算日(その日から10年で時効が完成する)とされてきた。
(ロ)現在の判例・実務
近時判例は、債権者不確知を原因とする弁済供託につき、「供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時」が供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点である旨明らかにした(最平13.ll.27)。そして、このことは、当事者間の争いを前提としない「受領不能」にも当てはまると解され、実務の扱いも判例に従って変更された(平14.3.29民商802号)。
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事例 |
消滅時効の起算点 |
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還付請求権 |
原則 |
供託成立時 |
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例外(賃借権の存否について争われている場合における賃貸人の受領拒否を原因とする弁済供託) |
紛争解決時 |
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反対給付のある弁済供託金 |
反対給付が履行された時 |
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取戻請求権 (平14.3.29民商803号)
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事実関係をめぐる紛争の発生が 認められない場合 |
債務の弁済期から10年経過時 (供託がこれより遅れるときは供託時から10年経過時) |
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事実関係をめぐる紛争の発生が 認められる場合 |
免責の効果を受ける必要性が消滅した時点(和解成立•判決確定時) |
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錯誤による 取戻しの場合 |
供託原因の不存在が供託書の記載より明白である場合 |
供託時 |
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上記以外の場合 |
錯誤であることが確定した時点 (判決確定時) (平14.3.29民商803号) |
② 裁判上の担保(保証)供託の場合
裁判上の担保(保証)供託の取戻請求権は、供託原因消滅の日から10年を経過した時に消滅時効が完成する。
具体的には、担保取消決定確定の日から10年で取戻請求権は消滅時効が完成し、還付請求権は損害賠償請求権が確定した日から10年で時効消滅する。
③ 営業保証供託の場合
営業保証供託金の取戻請求権も、営業免許の失効または取消し、営業廃止、業者の死亡、合併による消滅など供託原因の消滅の日から10年で時効消滅するのが原則である。もっとも、営業保証金の取戻しの前提として、権利者に権利の申出をすべき旨の公告(公示)を義務づけているものについては、供託原因消滅後、権利申出期間の最低限と定められている期間を経過した日から、取戻請求権の消滅時効は進行する(昭52.8.31民四4448号)。たとえば、旅行業者が営業を廃止した場合には、営業保証金に対して権利を有する者に対して6か月を下らない一定期間内に債権の申出をすべき旨を公告し、その期間内に申出がなかった場合でなければ営業保証金を取り戻すことができない(旅行業法21条)。その他、割賦販売法•宅建業法にも同様の規定あり。
従たる事務所の廃止により、営業保証のため供託した供託金の一部を取り戻すことができるようになったときは、当該供託金の一部に係る取戻請求権について消滅時効が進行する。
④ その他の供託の場合
選挙供託、仮差押え•仮処分解放金の供託、民執156条1項等の第三債務者の供託については、いずれもその取戻請求権は供託原因消滅の日から10年で時効が完成する。
■供託金利息の消滅時効
(1) 原則
供託金の利息は原則として元金の払渡しと同時に払い渡されるため、元金の支払いがなされなければ、利息だけが単独で時効にかかることはないのが原則である。
(2) 例外(利息のみが消滅時効にかかる場合)
しかし、元金の受取人と利息の受取人が異なる場合は、元金を払い渡した日の翌日〔客観的起算点〕から利息払渡請求権の消滅時効の進行が開始し、10年で時効が完成する(昭4.7.3民事5618号)。
(3) 保証供託における供託金利息の消滅時効
営業保証供託、裁判上の担保(保証)供託として金銭を供託したときは、毎年供託した月に応当する月の末日後に、同日までの利息を払い渡すことができる(供託規34条2項)。したがって、保証供託金の利息請求権の消滅時効は、供託した翌年の応当月の翌月1日から進行が開始する。