• 供託法ー12.供託成立後の権利変動
  • 1.供託成立後の権利変動
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1供託成立後の権利変動

堀川 寿和2022/02/08 10:42

供託物払渡請求権の法的性質

 

(1) 供託物払渡請求権

供託が成立すると、供託者は、供託物の取戻請求権を取得し、被供託者は供託物の還付請求権を取得する。この供託物払渡請求権は、国(供託所)を債務者とする供託物に対する一種の債権である。これらの債権は一般の債権と同様、自由に譲渡でき、また、質入れ(大11.9.13民甲2449号)、強制執行による差押え、仮差押えの執行、滞納処分による差押え(明32.2.9民刑239号)の対象となる。さらに、債権者代位の目的となり(昭27.9.2民甲147号回答)、一身専属権ではないため相続の対象にもなる(昭39.3.31民甲774号)。

 

(2) 取戻請求権と還付請求権の関係

① 別個独立した債権

この供託物の取戻請求権と還付請求権とは独立の請求権であって、それぞれ別個に処分することができ、一方の処分は他方に影響を及ぼさない。供託者が取戻請求権を譲渡し、被供託者が還付請求権を譲渡した場合、それぞれ譲受人は有効に取戻請求権、還付請求権を取得することになる。しかし、この2つは、1個の供託という事実から生じた2個の債権であることから、取戻しまたは還付いずれか一方の権利行使があると他方も当然に消滅する。したがって、有効に供託物の還付請求がなされた後は、もはや取戻を請求することはできないことになる。

 

② 取戻請求権と還付請求権が競合した場合

取戻請求権と還付請求権が競合した場合には、供託の性質上、一般的には還付請求権が優先される。

 

先例

(昭46全国会同会議)

 

適法な還付請求書と取戻請求書が同時に提出されたときは、還付請求を認可し、取戻請求を却下する。

 

③ 弁済供託に特有の問題

弁済供託では、債権者が供託を受諾せず、または供託を有効と宣言した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる(民法4961項前段)。したがって、債権者(被供託者)が供託を受諾した場合は、弁済者(供託者)は供託物を取り戻すことができなくなる。なお、供託受諾の意思表示は書面でしなければならない。

 

先例

(昭36.10.20民甲2611号)

 

還付請求権が譲渡され、その通知があったときはそれが供託受諾の意思表示とみなされることがあり、この場合は、もはや取戻しが認められない。

                     ↓ これに対し

先例

(明45.5.23民事582号)

 

供託物取戻請求権が譲渡され、供託所に債権譲渡通知がなされた後であっても、被供託者から還付請求があったときはこれに応じて差し支えない。

 

先例

(昭42.3.3民事267号)

 

弁済供託金の還付請求権に対し、差押え、処分禁止の仮処分がなされただけでは、なお供託者は取戻しを妨げない。

⇒ 還付請求権の差押えがあっただけでは供託受諾ありといえないためである。ただ、その差押通知書に供託受諾の旨が併記されている場合には、取戻しはできないことになる。

 

先例

(昭31.5.7民甲973号)

 

弁済供託の還付請求権に対し、債権差押え・転付命令の送達があった後も、供託者から錯誤を事由とし、これを証する書面を添付して取戻しの請求があったときはこれを認可して差し支えない。

⇒ 錯誤による供託は無効であり、無効な供託から還付請求権は発生せず、供託受諾は無意味だからである。

供託物払渡請求権の譲渡

(1) 譲渡の可否

前述のとおり、供託物払渡請求権は、還付請求権、取戻請求権ともに、一般の債権と同様に譲渡することができる(大11.9.13民事2449号)。

 

(2) 譲渡の対抗要件

① 債務者に対する対抗要件

通常、債権譲渡を債務者に対抗するためには、債務者に対する通知または承諾が必要である(民法4671項)が、供託物払渡請求権の譲渡の場合、債務者は供託所(国)であり、供託所は承諾書の交付をしない取扱いであるため、対抗要件は通知のみに限られる。したがって、供託物払渡請求権は、一般の債権譲渡の方法により供託手続外で自由に譲渡することができるが、譲渡の効力を債務者である供託所に対抗するためには譲渡人から供託所に対して債権譲渡の通知をしなければならない。よって譲受人が供託所に対して払渡請求するには、譲渡人から供託所に対する譲渡通知が不可欠である。

 

先例

(昭38.5.25民甲1570号)

 

この譲渡通知が受理された後は、譲渡人からの還付請求または取戻請求があっても供託所は払い渡すことができない。

⇒ 譲受人が還付または取戻しをすることになるからである。

 

② 第三者に対する対抗要件

債権譲渡を債務者以外の第三者に対抗するためには、通常確定日付ある証書でしなければならず、通常は内容証明郵便や公正証書が用いられる。しかし、供託所に対する通知は、確定日付がなくても供託所において受付の旨およびその年月日時分を記載することとされているため、これが確定日付の役割を果たすため、供託物払渡請求権の譲渡通知は、確定日付ある証書ですることを要しない。

 

(3) 印鑑証明書の添付

供託物の還付または取戻請求権の譲渡通知書には、必ずしも印鑑証明書の添付がなくても、その効力は妨げられないが、そうすると譲受人が払渡請求する際に、譲渡通知書の真正を担保するため、譲渡人の印鑑証明書を添付させなければならなくなる。したがって、実務上は譲渡通知書に譲渡人が押印した印鑑につき印鑑証明書が添付されていないときは、供託所は、譲渡人に通知して補正させるか、印鑑証明書の提出を催告して譲渡通知書を補正させることができるとしている(昭39全国会同決議)。

 

(4) 譲受人による払渡請求

供託物払渡請求権を譲り受けたことを証する書面の添付は必要がない。債権譲渡事実は譲渡通知によって供託所に明らかだからである。

 

(5) 供託物払渡請求権の二重譲渡

供託物払渡請求権が二重に譲渡され、譲渡通知が供託所に送達されたときは、その優劣は到達の先後によって決まる(最昭49.3.7)。

供託物払渡請求権の質入れ

(1) 質権設定の可否

供託物払渡請求権も、通常の債権と同様に、質入れすることができる。

 

(2) 質権設定の対抗要件

指名債権の質入れを第三債務者たる供託所その他の第三者に対抗するためには、質権設定者たる供託者または被供託者から供託所に対し質権設定の通知をしなければならない。

この通知も確定日付をもってしなければ第三者に対抗することができないはずであるが、供託所において当該通知書に受付の旨および受付年月日時分を記載することになるため、債権譲渡通知の場合と同様に確定日付ある証書ですることを要しない。

 

(3) 質権者による払渡請求

質権者が供託物払渡請求権から優先弁済を受ける方法として、「直接取立てによる方法」と「民事執行法による取立て」の2つがある。

① 直接取立ての方法

供託物払渡請求権の質権者は、供託所に対して直接に還付請求または取戻請求をすることができる。債権質権者には直接取立権が認められているためである(民法366条)。質権の目的である金銭債権の弁済期が債権質権者の債権の弁済期前に到来したときは、債権質権者は第三債務者にその弁済すべき金額を供託させることができる。この場合、質権はその供託金払渡請求権について存在する。

② 民事執行法による執行

質権者は、質権の実行として供託金払渡請求権を差し押さえること、または差押え・転付命令を得て、その払渡しを請求することもできる(民執法193条)。

 

(4) 還付請求権の質入れと取戻請求権の質入れの競合

還付請求権と取戻請求権はそれぞれ独立性があり、一方の処分は他方に影響しない。その結果、取戻請求権に質権が設定されても、還付請求権に質権を設定することは可能である。しかし、還付請求権に対する質権設定の通知は、供託受諾の効力が認められるため、もはや取戻請求はできないことになる。