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1供託物の払渡請求

堀川 寿和2022/02/08 10:26

供託物の還付請求

(1) 還付請求者

① 弁済供託

被供託者またはその承継人

② 裁判上の担保(保証)供託

被供託者またはその承継人

③ 営業保証供託

供託者と取引をした債権者等

 

(2) 還付請求の要件

被供託者が確定していること

たとえば、被供託者として「甲または乙」と記載されている場合、甲または乙が還付を受けるためには、自己が還付を受ける権利を有することを証明しなければならない。

被供託者の供託物に対する実体法上の請求権が確定していること

たとえば、弁済供託の場合は供託を受諾し、裁判上の担保(保証)供託の場合は損害が発生している必要がある。

被供託者が権利行使するについて、条件が成就していること

したがって、還付請求をするにつき反対給付を要するときは反対給付を履行したことが必要である。

 

還付請求手続

(1) 供託物払渡請求書

被供託者が供託物の還付を受けようとするときは、供託物払渡請求書を提出しなければならない(供託規221項)。被供託者を2人とする弁済供託金について、被供託者の1人から払渡請求があった場合において、その持分が不明であるときは平等の割合で払い渡して差し支えないものとする。

 

(2) 還付請求の添付書類

供託物の還付を受けようとする者は、前述の「資格証明書」「代理権限証書」「印鑑証明書」の他、次の書類を添付しなければならない(供託規24条)。

 

① 還付を受ける権利を有することを証する書面

供託物払渡請求書には、副本ファイルの記録から、還付を受ける権利を有することが明らかである場合を除き、還付を受ける権利を有することを証する書面を添付しなければならない(供託規2411号)。なお、現在では、供託書正本または供託通知書の添付は要求されていない。平成17年の供託規則の改正前は供託物の還付を受けようとする者は、供託物払渡請求書に供託書正本または供託通知書を添付しなければならなかったが、同改正により供託物払渡請求書に供託書正本または供託通知書の添付を要しないこととした。なお、いずれも3か月以内のものというような期間制限はない。

a) 弁済供託の場合

原則として副本ファイルに記録のある被供託名と還付請求者の同一性が確認できるため、還付を受ける権利を有することを証する書面は不要である。

(イ)被供託者が死亡して相続人が還付請求をする場合には、包括承継の事実や相続関係を証する書面として、戸籍謄本等の添付が必要とされる(昭37.6.19民甲1622号)。

(ロ)被供託者を「AまたはB」とする債権者不確知による供託の場合は、還付請求権者を確定する書面としてA•B間の確定判決の謄本、和解調書、調停調書または印鑑証明書付の他方当事者の承諾書を添付しなければならない。なお、確定判決の謄本を添付する場合には、判決理由中で還付請求権を有することが確認できればよい(昭42全国会同決議)。

(ハ)また、被供託者を「AまたはB」とする債権者不確知を原因とする弁済供託において、「供託者の承諾書」は、還付を受ける権利を有することを証する書面として取り扱うことはできない(昭36.4.4民甲808号)。

(ニ)被供託者を「AまたはB」とする債権者不確知供託につき、第三者Cが、AおよびBを被告とする訴訟の確定判決の謄本を添付して、Cが当該供託に係る債権の実体上の権利者であることを証明したとしても、Cは供託物の還付を受けることはできない。手続上供託当事者とされていない者が還付を受けることはできないからである。

 

先例

(昭37.3.31民甲906号)

 

還付請求権者をAまたはBとする弁済供託金につき、A・B両名から還付請求があったときは、その払渡しを認可して差し支えない。

 

先例

(昭41.4.14民甲1107号)

 

被供託者をAまたはBとする弁済供託につき、Aから印鑑証明書を添付して払渡請求があっても、Bの承諾がない限り当該払渡しは認可できない。

 

先例

(昭42全国会同決議)

 

所有権に争いがあるため被供託者をAまたはBと記載して地代、家賃の弁済供託がなされ、その後A・B間で示談が成立し、還付請求をするときは、示談の成立を証する書面の添付を要する。

 

b) 営業保証金の場合

営業保証金を供託した事業者との取引により債権を取得するに至った者はその者の事業活動により被害を被った者がそれを証明して還付を受けるためには、還付を受ける権利を有することを証する書面として、確定判決、調停調書、和解調書、事業者(供託者)作成の債務承認書(印鑑証明書付)等のいずれかを添付しなければならない。また、これらの証明書は、取引から生じた債権であることが証明されなければならないが、当該債権が現存しているか否かを証明する必要はない(昭41.12.8民甲3302号)。

c) 相続証明書・住所証明書等

被供託者に、供託後に住所移転、氏名(商号)変更等があったときは、副本ファイルの記録と払渡請求書、印鑑証明書の記載とが符合しなくなるので、同一人であることを証明するための住民票、戸籍謄本等、登記簿謄本等の添付が必要となる(昭42.3.6民甲353号)。住居表示の実施により被供託者の住所が変更した場合も同様であって、その変更を証する書面の添付が必要である(昭40.1.7民甲67号)。

 

② 反対給付の履行を証する書面

被供託者が供託者に対して反対給付をしなければ還付請求を受けることができないときは、反対給付を履行したことを証する書面を添付しなければならない(供託規2412号)。

この反対給付を履行したことを証する書面としては、たとえば、供託書に反対給付の内容として「供託者名義に所有権移転登記をすること」と記載されている場合には当該不動産の登記事項証明書がこれに当たり、それを添付して売買代金の弁済供託金の還付を受けることになる。この場合、供託者が作成した「被供託者が受領することに同意する」旨の同意書の添付でも足りる(昭37.1.24民甲132号)。

供託物払渡請求書に利害関係人の承諾書を添付する場合には、当該承諾書の作成前3か月以内またはその作成後に作成された次に掲げる書面を併せて添付しなければならない(供託規242項)。

1. 当該承諾書に押された印鑑につき市区町村長または登記所の作成した承諾者の申請意思を確認するために、承諾書に押された印鑑についての印鑑証明書を添付する。

2. 法人が利害関係人となるときは、代表者の資格を証する書面

3. 法人でない社団または財団であって代表者または管理人の定めのあるものが利害関係人となるときは、代表者または管理人の資格を証する書面

 

供託物の還付請求をめぐる諸問題

(1) 代位による還付請求

債権者は債権保全のため、その債務者の有する供託物還付請求権を代位行使して自ら供託物を受領することができる(昭27.9.2民甲147号)。この場合には、債務名義または債務者の承諾書等の債権を有する事実を証する書面および債権保全の必要性を証する書面として、債務者の無資力なることの証明書の添付が必要である(昭38.5.25民甲1576号)。

 

(2) 相続人による還付請求

被相続人の有する金銭債権は各相続人がその相続分に応じて承継するため、弁済供託後、被供託者が死亡した場合、相続人は各自自己の相続分につき還付請求をすることができる。各相続人が全額の還付請求をすることはできず、また、相続人全員が共同して還付請求をする必要はない。

しかし、供託有価証券について相続人の1人から払渡請求があった場合、その有価証券が1枚であるときは、券面額の多少にもかかわらず全額払い渡して差し支えない(昭42.4.24民甲976号)。有価証券が1枚であり不可分だからである。

 

先例

(昭35全国会同決議)

 

供託物払渡請求権の相続人の1人から、相続分につき払渡請求があったときは、これに応じて差し支えない。

 

先例

(昭50全国会同決議)

 

弁済供託がなされた後、被供託者が死亡したため、その相続人全員から共同で還付請求があったときは、各相続分を明らかにしていなくても払渡しを認可して差し支えない。

 

先例

(昭41.9.22民甲2586号)

 

債務者が債権者の死亡の事実を知らずに、死亡した債権者を被供託者として供託した場合、当該供託物は被供託者の相続人から還付請求することができる。