• 供託法ー3.弁済供託
  • 6.地代・家賃の弁済供託
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  • Sec.1

1地代・家賃の弁済供託

堀川 寿和2022/02/08 09:35

地代・家賃の弁済供託

(1) 地代・家賃の弁済供託の管轄供託所

弁済供託であるため、債務履行地の供託所である(民法4951項)。

 

先例

(昭36.4.8民甲816号)

 

地代家賃の債権者が数名で、支払場所が債権者の住所と定められている場合、可分債権については各人別にその住所地のもよりの供託所に、不可分債権についてはそのうちの一人の住所地のもよりの供託所に供託すべきである。

 

先例

(昭35全国会同決議)

 

死亡により家屋が共同相続された場合、借主が共同相続人の一人に賃料を提供し受領を拒否された場合、その者に対して賃料全額の弁済供託をすることはできない。賃貸人の有する賃料債権は金銭債権であり、相続分に応じた可分債権となるため、相続分に応じた賃料額をそれぞれ提供し、その受領を拒否された者に対する割合額しか供託できない。

↓ これに対して

先例

(昭37.1.24民甲132号)

 

土地を数人で賃借している場合のように共同賃借人の賃料は判例上(大大11.ll.24)不可分債務となり、一人から全賃借人のために弁済供託することができる。

 

先例

(昭36.4.4民甲808号)

 

債権者である家主が死亡し、その共同相続人のうち一人のみが賃料の受領を拒絶した場合には、相続分の割合により換算した額を供託することができる。

⇒ 賃料全額を供託することはできない。受領を拒絶した相続人の相続分のみ供託できる。

 

(2) 供託原因

弁済供託の原因としては、前述のように「受領拒否」「受領不能」「債権者不確知」の3種類がある。

 

① 受領拒否をめぐる先例

 

先例

(昭39.3.28民甲773号)

 

賃借人が賃料を提供したが賃貸人が受領書を交付しない場合は、受領拒否を理由として供託することができる。

 

先例

(昭36.4.4民甲808号)

 

家賃の支払時期が「毎月末払」の場合、25日に提供して受領拒否されたとして供託できない。末日が弁済期である以上、その日に提供すべきだからである。したがって、「毎月末日に当月分を支払う」旨の約定のある家賃について、期限の利益を放棄して前月末に当月分を供託することはできない。

⇒ その月の末日にならなければ家賃債務は発生せず、発生しない債務の期限の利益の放棄も考えられないからである。

↓ これに対して

支払期が「毎月末日まで」とされている場合は、その月の1日に提供し、受領を拒否されれば供託することができる。その月の1日から末日までいつでも適法な弁済の提供ができるからである。「毎月末日までに翌月分を支払う」とされている場合も、たとえば4月分の賃料を31日に提供し、受領拒否されたならば供託できる。

 

先例

(昭38.5.18民甲1505号)

 

10か月分の家賃を滞納している場合に、そのうち1か月分の家賃とその遅延損害金を提供して

受領を拒否されたときは、提供した家賃と損害金のみを供託することができる。

 

先例

(昭40.12.6民甲3406号)

 

土地の一部について明渡請求を受け、当該部分の賃料の受領を拒否されたため賃料の全額について供託の申請があった場合は受理して差し支えない。

 

先例

(昭45.8.29民甲3857号)

 

支払場所を供託者住所と定めた家賃は(取立債務)につき催告をしたが、支払日を経過しても債権者が受領に来ないときは、受領拒否を理由として弁済供託をすることができる。

 

 

先例

(昭37.6.19民甲1622号)

 

共同住宅の借家人が、契約に基づき家賃と電灯料金を含めた額を提供して拒否された場合、電灯(ガス)料金を含む家賃を供託することができ、この場合は供託書の備考欄にその区分を明記することを要する。

 

② 債権者不確知による先例

 

先例

(昭41.12.8民甲3325号)

 

家賃弁済について賃貸人の死亡により相続が開始したが相続人の一部が判明しない場合には、債権者不確知を理由に供託することができる。

⇒ 賃借人は相続の有無や相続放棄の有無等につき調査する必要はない。

この場合、被供託者の表示は「(住所)○○の相続人」とする(昭37.7.9民甲1909号)。

 

先例

(昭47全国会同決議)

 

賃貸人の相続人は明らかであるが、その持分が不明であるだけの場合は債権者不確知とはいえない。

⇒ この場合は、原則どおり法定相続分に応じてそれぞれ賃料を提供し、受領を拒否されれば、各別に賃料額を供託することになる。

 

(3) 地代・家賃の増額、減額請求と供託

地代・家賃の増額請求があったが、賃借人がそれを不当とし、協議が調わない場合に賃借人が賃料を供託することができる。供託しないで放置しておくと、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除されるおそれがあるからである。

 

① 増額請求があった場合

地代・家賃の増額請求があり、これを不当と判断するときは、請求を受けた賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、自己が相当と考える金額(従来どおりが適正と思えばその額またはそれを上回る額)を支払えばよい。そして受取を拒否されたときは、その金額を供託することができる。その後、裁判が確定し、支払額と裁判で確定した正当額とに差があるときは、その差額に値上げ請求の日から年1割の利息を付けて支払えば足りる(借地借家法112項、322項)。

 

先例

(昭38.12.27民甲3344号)

 

値上げを不当として従前の賃料を現実に提供したが受領を拒否された場合は供託することができる。

 

判例

(最昭33.12.18

 

賃料の増額の効力が争われ、受領拒否を原因としてされた従前の額の賃料の弁済供託において、被供託者は、賃料の一部として受領する旨の留保を付して供託金の払渡しを請求することができる(留保付の還付請求)。

 

先例

(昭38.6.6民甲1669号)

 

家賃の弁済供託があった場合に、被供託者がこれを損害金として受領する旨を留保して供託金の払渡しを受けることはできない。

⇒ 賃料と損害金は債権の性質が違うからである。

 

② 減額請求があった場合

逆に、賃借人からの減額請求があったときは、賃貸人は、自分が相当と認める額(従前額またはそれを下回る額)を請求することができ、後日裁判等で適正額が確定した結果、超過して受領したことになった額について、年1割の受領時からの利息を付して賃借人に返還すればよい(借地借家法113項、323項)。ここでいう相当額とは、賃貸人が妥当と認めて請求した額をいうのであって、賃借人が一方的に相当と認めて賃貸人の請求額を下回る金額を支払うことは許されない。

 

先例

(昭46全国会同決議)

 

建物の賃借人が借賃の減額請求権を行使し、減額請求後の額を貸主に提供して受領を拒否されたとしてする弁済供託は受理できない。

 

(4) 地代・家賃と他の債権との相殺と供託

① 貸金債権との相殺

地代または家賃債務は貸金債権と相殺することができる。たとえば、賃料月5万円の借家人が、家主に対し3万円の貸金債権をもっている場合、その貸金の弁済期が先に到来するときは借家人は家賃と相殺し、その差額の2万円を家賃支払日に提供すればよく、受領拒否されれば供託することができる。

 

② 修繕費との相殺

賃借人が賃貸人の負担に帰すべき必要費を支出したときは、賃貸人に対しただちにその償還請求することができる(民法6081項)。したがって、賃借人は賃料債権と償還請求権とを相殺し、その差額を賃貸人に提供すればよい。そして、もし受領を拒否されれば、供託することができる(昭41.11.28民甲3264号)。

 

③ 敷金との相殺

延滞した地代または家賃を敷金と相殺することはできない。

 

先例

(昭37.5.31民甲1485号)

 

したがって、たとえば、延滞家賃から敷金を控除した残金を貸主に提供し、受領を拒否されても供託することはできない。