• 供託法ー2.供託の有効要件
  • 5.供託すべき機関等
  • 供託すべき機関等
  • Sec.1

1供託すべき機関等

堀川 寿和2022/02/07 16:35

供託の目的物ごとの供託機関

(1) 供託物が金銭・有価証券または振替国債の場合

供託物が金銭、有価証券または振替国債であるときは、法務局、地方法務局、その支局、法務大臣が指定する出張所が供託所として供託事務を取り扱う。

 

(2) 供託物が金銭・有価証券または振替国債以外の物品(動産)の場合

供託物が金銭・有価証券以外の物品であるときは、法務大臣の指定する倉庫業者または銀行が供託所として供託事務を取り扱う(供託法51項)。倉庫業者または銀行はその営業の部類に属する物であれば、保管しうる数量まで保管する義務を負う(供託法52項)。なお、倉庫業者または銀行は供託物の保管に要した費用を供託物の受取人に請求できる(供託法7条)。

 

(3) 弁済供託の場合の特例

有体物の弁済供託の場合で、次に掲げる場合には、弁済者の請求により、債務履行地の裁判所が供託所の指定・供託物保管者の選任を行うこととされている。

供託すべき法定の地域に指定倉庫営業者および供託所がない場合

倉庫営業者が供託の目的物が営業の部類に属さない場合

保管できる限度の数量を超える場合を理由に供託申請を拒否される場合

さらに、不動産の弁済供託の場合も同様に、弁済者の請求により、債務履行地の裁判所が供託所の指定・供託物保管者の選任を行う。供託所としては、実際に指定され得るのは、銀行その他の金融機関、証券会社、倉庫業者等、目的物に応じた保管施設であり、供託物の保管者として指定され得るのは、家畜その他の動物については牧場経営者、養鶏業者、動物園長等、不動産については信託会社や不動産業者等である。

供託所の土地管轄

(1) 土地管轄

供託法には土地管轄の定めがないため、供託所には管轄がないのが原則である。したがって、たとえば、選挙供託の際の供託については、供託者は全国どこの供託所に供託してもよい。ただ、■3で記載するとおり供託の種類によりそれぞれの供託根拠法令によって供託すべき管轄供託所が定まっている場合があり、その場合は定められた供託所へ供託しなければならない。

 

(2) 管轄違いの供託

管轄を誤って供託したときは、供託官は却下する。民事訴訟法のように移送するといった規定は存在しない。仮に誤って管轄違いの供託を受理してしまったとしてもその供託は無効である。

したがって、供託の効力は生じないため、供託者は供託した物を錯誤として取り戻し、改めて管轄供託所へ供託しなおさなければならないことになる。もっとも、被供託者である債権者が誤った管轄になされた供託を受諾したり、または供託物の還付を受けたときには瑕疵は治癒され、供託は当初から有効なものとなって債務免脱の効果が生ずる(昭39.7.20民甲2594号)。

供託所の管轄

(1) 弁済供託の管轄供託所

① 債務履行地の供託所

弁済供託は、債務履行地の供託所にしなければならない(民法4951項)。弁済供託は債権者に弁済すべき物を供託することになるため、債務履行地でしなければならないからである。

ここでいう「債務履行地の供託所」とは、債務履行地の属する最小行政区画(市町村・東京都特別区)内にある供託所のことをいう。したがって、債務履行地の市区町村内に供託所がある場合は、たとえ隣の市区町村内にある供託所の方が地理的・距離的に近い場合であっても、その供託所に申請することは許されない。もし債務履行地の市区町村内に供託所がない場合は、その市区町村を包摂する行政区画(都道府県)内の最寄りの供託所に申請することとされている(昭23.8.20民甲2378号)。この「最寄りの供託所」とは、単に物理的・地理的に近いというだけでなく、時間的・経済的にみて被供託者の供託物の受領に最も便利な供託所という意味である(昭40.1.7民甲67号)。被供託者の利益保護のためである。したがって数個の供託所が、距離的・時間的・経済的に比較して大差のない場合は、どの供託所に申請しても差し支えないことになる(昭42.1.9民甲16号)。

 

② 債務の履行地

(イ)原則

民法は持参債務を原則とする(民法484条)ため、債権者の住所地であるが通常の債務履行地である。

(ロ)例外

a) 特定物債権の場合

債権発生の時にその物が存在した場所となる(民法484条)。

b) 売買代金の支払債務の場合、売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきとき

その引渡し場所が供託すべき場所となる(民法574条)。

c) 取立債務の場合

債務所の住所地が供託すべき場所となる。銀行の預金債務については、特約により取立債務とされているので債権者である預金者の住所地の供託所ではなく、債務履行地である銀行の本店または支店等を管轄する供託所に供託すれば足りる。

 

先例

(昭38.6.22民甲1794号)

 

債務履行地を債権者の住所とする債権が甲から乙へ譲渡され、そのいずれが債権者であるか確知できない場合のような、持参債務で債権者不確知を理由とする供託は、甲または乙いずれの住所地の供託所にしてもよい。

⇒ 債権者不確知だからといって、供託者の住所地の供託所に供託できるわけではない。

 

先例

(昭33.3.27民甲635号)

 

債権者が当初から全く不明である場合は、取立債務の場合と同じく債務者の住所地の供託所に供託すればよい。

 

先例

(昭39年全国会会議)

 

持参債務につき弁済場所の特約がなく、債権者の住所も不明である場合は、受領不能を理由として債権者の最後の住所の供託所に供託する。

 

(2) 営業保証供託の管轄供託所

宅建業者、旅行業、割賦販売業等の一定の事業を営む者に対しては、各々の業法でその債権者等の担保とするために営業保証金の供託が強制されている場合がある。この場合、その業者の主たる事務所(営業所)のもよりの供託所に供託しなければならない旨を定めている例が多い。

営業保証供託を誤った管轄の供託所に供託した場合については、本来無効となって供託をしなおさなければならないのが原則であるが、これでは債権者の保護に欠ける結果となるため、営業保証供託については例外的に供託が有効と取り扱こととされている(昭44東京法務局供託課長会決議)。

 

(3) 裁判上の担保(保証)供託の管轄供託所

① 民訴法による担保

訴訟費用の担保(民訴法751項)、仮執行等のための担保(民訴法2591項から3項)のためにする供託は、担保を命じた裁判所(発令裁判所)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない(民訴法76条、2596項)。

 

② 民執法による担保

民事執行法の規定により担保を立てるためにする供託は、担保を命じた裁判所(発令裁判所)または執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない(民執法151項)。

 

③ 民保法による担保

(イ)原則

民事保全法の規定により担保を立てるためにする供託は、担保を命じた裁判所(発令裁判所)または保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない(民保法41項)。

(ロ)例外

民保法142項は、保令命令の申立てについての担保の供託について特則を設け、民保法41項の供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地または事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができると規定している。

 

(4) 執行供託の管轄供託所

① 金銭債権に対する強制執行等における第三債務者がする供託

債務履行地の供託所に供託しなければならない。

 

② 仮差押解放金・仮処分解放金の供託

仮処分命令を発した裁判所または保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない(民保法222項、252項)。

 

(5) その他の場合

株券発行会社において、譲渡制限のある株式の譲渡につき、株式会社により譲渡の相手方として指定された者または株式会社が買取りをする場合は、譲渡等承認請求者は、当該株券の供託を、当該株券発行会社の本店所在地の供託所にしなければならない(会社法1413項、1423項)。