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1供託法の基礎理論

堀川 寿和2022/02/07 16:06

供託法の基礎理論

(1) 供託の意義

① 意義

供託とは、法令の規定に基づいて、供託者が、ある財産(供託物)を国家機関である供託所または国家機関の指定する者へ寄託してその管理に委ね、供託所等を通じてそれを特定の者に受領させて、一定の法律上の目的を達しようとするものである。

 

供託に関する用語

金銭、有価証券等の供託の目的物を供託物、供託所等に供託物を提出する者を供託者、供託所を通じて供託物を受領する者を被供託者という。そして、供託物を受け入れる国家機関が供託所である。

 

Point 供託は、供託者と供託所との間の第三者(被供託者)のためにする寄託契約である。ただし、供託の効果が生じるために、被供託者の受益の意思表示は不要である。

 

供託の種類

供託は、達成しようとする目的(供託原因)の違いによって、大きく次の5つに分けられる。

(a) 弁済供託

(b) 担保(保証)供託

(c) 執行供託

(d) 没取供託

(e) 保管供託

 

(a) 弁済供託

 弁済供託とは、債務を消滅させるための供託である。弁済供託ができるのは、債権者の受領拒絶・受領不能や債務者に過失なくして債権者が誰かを確知できない場合である。

 

ⅰ)受領拒絶

 たとえば、建物の賃借人は、賃貸人からの賃料の値上げ要求を不当とする場合に、相当と認める額の賃料を提供し、その受領を拒否されたときは、相当と認める額の賃料につき「受領拒絶」を供託原因とする弁済供託をすることにより、賃料債務を消滅させることができる。

 

ⅱ)受領不能

 たとえば、建物の賃借人は、賃貸人の不在や行方不明等により賃料の弁済をすることができないときは、当該賃料につき「受領不能」を供託原因とする弁済供託をすることにより、賃料債務を消滅させることができる。

ⅲ)債権者不確知

 たとえば、建物の賃借人は、賃貸人の死亡によりその相続人が分からなくなるなど、自らに過失がないにもかかわらず、賃料を支払うべき相手が分からなくなった場合には、当該賃料につき「債権者不確知」を供託原因とする弁済供託をすることにより、賃料債務を消滅させることができる。

 

(b) 担保(保証)供託

 担保(保証)供託とは、債権を担保するための供託である。担保(保証)供託には、「営業保証供託」、「裁判上の担保(保証)供託」などがある。

 

ⅰ)営業保証供託

 営業保証供託は、営業者がその営業活動により生ずる債務ないし損害を担保するためにする供託である。宅地建物取引業、割賦販売業、旅行業など、取引の相手方が不特定多数で取引活動も広範である場合において、取引の相手方に対し、取引上の損害を与えるおそれのある営業については、その業務開始に際して、それぞれの法令に定められた一定の金銭等の供託が義務付けられている(宅地建物取引業法、割賦販売法、旅行業法など)。これは、その営業活動に伴って債権を取得する債権者や損害を被る被害者を保護するために設けられている。

 

ⅱ)裁判上の担保(保証)供託

 裁判上の担保(保証)供託とは、訴訟行為または裁判上の処分に関連して民事訴訟法、民事執行法および民事保全法により、担保の提供が規定されている場合の供託をいう。

 たとえば、財産権上の請求に関する判決については、未確定の終局判決であっても、直ちに勝訴者の強制執行を可能にするために、裁判所は仮執行の宣言をすることができるが、この場合に勝訴者は裁判所から担保の提供を要求されることがある(民事訴訟法2591項)。このような担保の提供のためにする供託が、裁判上の担保(保証)供託である。これは、仮執行がなされた後の上級審で結論が覆った場合に、敗訴者に生じる可能性がある損害を担保するためのものである。

(c) 執行供託

 執行供託とは、民事執行の目的となっている金銭や目的物の換価代金を当事者に交付するために行う供託である。執行供託には、権利供託と義務供託がある。

 

ⅰ)権利供託

 

 金銭債権について裁判所から差押命令の送達を受けた場合、当該金銭債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、その金銭債権の全額に相当する金銭を債務履行地の供託所に供託することができる(民事執行法1561項)。

ⅱ)義務供託

 

 同一の金銭債権について重複して差押命令の送達を受けた場合には、第三債務者は、その金銭債権の全額に相当する金銭を、差押後に配当要求を受けたときは、差し押さえられた部分に相当する金銭を債務履行地の供託所に供託しなければならない(民事執行法1562項)。

(d) 没取供託

 没取供託とは、没取の目的物の供託である。

 たとえば、公職選挙法に基づく立候補の届出のために行う供託がこれに当たる。公職の候補者の届出をしようとするものは、公職の候補者1人につき一定の額の金銭等を供託しなければならず(公職選挙法92条)、有効投票総数に対する候補者の得票数が一定の割合に達しなかった場合は、供託物が没取される(公職選挙法93条)。

 

(e) 保管供託

 保管供託とは、保管のためにする供託である。目的物の散逸を防止するために、供託物そのものの保管・保全を目的として行われる。

 たとえば、銀行、保険会社などの業績が悪化して、資産状態が不良となった場合に、その財産の散逸を防止するため、監督官庁が当該銀行等に財産の供託を命ずる場合の供託がこれに当たる(銀行法、保険業法)。供託された供託物は、供託者である銀行等が破産した場合には、破産管財人により供託物の取戻しがされて破産財団に組み入れられ、銀行等の債権者への弁済に充てられることになる。

 

(2) 供託に関する法律

 供託は、法令に供託できると規定されている場合にのみ可能である。

 供託に関する法規は、供託根拠法規と供託手続法規の2つに大別できる。

供託に関する法規

供託根拠法規

民法、民訴法等の個々の法令

供託手続法規

供託法

供託規則

供託事務取扱手続準則

 

① 供託根拠法規

供託根拠法規とは、供託をすることができると定められた供託の根拠となる法規のことであり、民法494条(弁済供託)などの規定がその例である。つまり、「供託ができる」とか、「供託しなければならない」という供託の根拠となる法規があって初めてすることができる。

 

② 供託手続法規

上記に対して、その供託根拠法規に基づいて供託する場合の手続を定めた手続法規が供託手続法規である。その代表例が供託法であり、さらにその細目を定めたのが供託規則(以下、引用にあたっては「供託規」という。)である。さらに供託事務の取扱いについて供託所職員の事務処理の基準を定めた内部通達が供託事務取扱手続準則(以下、引用にあたっては「供託準則」という。)である。