- 民事保全法ー6.仮処分の効力
- 3.占有移転禁止の仮処分の効力
- 占有移転禁止の仮処分の効力
- Sec.1
1占有移転禁止の仮処分の効力
■占有移転禁止の仮処分の効力
(1) 占有移転禁止の仮処分の意義
占有移転禁止の仮処分とは、物の引渡・明渡請求権の保全のために、その物の現状維持を目的として、債権者に対し、その物の占有を他に移転することを禁止し、及びその占有を解いて執行官に保管させることを内容とする仮処分をいう。占有移転禁止の仮処分命令には、次のものがある。
① 執行官の保管を命ずるとともに債務者の使用を認めるもの ② 執行官に保管を命ずるのみのもの ③ 執行官に保管を命ずるとともに債権者に使用を認めるもの |
いずれの場合も債務者が占有を他人に移転することを禁止する旨が仮処分命令の主文に掲げられる。
(2) 占有移転禁止の仮処分の執行の方法
執行官は、占有移転禁止の仮処分命令の執行をするときは、剥離しにくい方法により公示書を掲示する方法その他相当の方法により、民保法25条の2第1項2号に規定する公示をしなければならない(民保規44条1項)。つまり、占有移転禁止の仮処分の場合、処分禁止の登記をする方法によらず、執行官に不動産を保管させ、かつ債務者が不動産の占有移転を禁止されている旨及び執行官が不動産を保管している旨の公示をしなければならない。
cf 仮の地位を定める仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければこれを発することができない(民保法23条4項)が、係争物を執行官に保管させ債務者の使用を許さないとする占有移転禁止の仮処分についてはこのような規定はない。
(3) 占有移転禁止の仮処分の効力
物の引渡・明渡訴訟係属中に物の占有が被告(債務者)から第三者に移転した場合、訴訟承継によりその者に訴訟を承継させることができるが、承継が不明なこともある。そこで占有移転禁止の仮処分により、原告は債務者に対する債務名義で、その後の占有者に対して引渡し・明渡しの強制執行ができることになり、当初の仮処分債務者との間で訴訟を続行すれば足りる。つまり、占有移転禁止の仮処分には当事者恒定の機能が認められる(当事者恒定効)。
(4) 仮処分の効力が及ぶ範囲
① 悪意の占有取得者
占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って当該係争物を占有した者(悪意の占有者)には仮処分の効力が及ぶ。ここでいう占有取得者は、譲渡、質入、賃貸、寄託など債務者の処分による承継占有者のみならず、上記のいずれにもよらないで占有を取得した非承継占有者も含まれる(ex いわゆる占有屋など)。占有移転禁止の仮処分命令の執行後に当該係争物を占有した者は、その執行がされたことを知って占有したものと推定する(民保法62条2項)。
cf 債務者の占有を承継したものと推定されるわけではない!
② 悪意の承継的占有取得者
占有移転禁止の仮処分命令の執行後にその執行がされたことを知らないで当該係争物について債務者の占有を承継した者(善意の承継的占有取得者)にも仮処分の効力が及ぶ。一方、善意の非承継占有者に対しては、当然に仮処分の効力が及ぶわけではなく、その者に対する債務名義が必要となる。債務者の占有を承継した者ではなく、独自の占有取得者だからである。
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承継的占有取得 |
非承継的占有取得 |
悪意の占有取得者 |
○ |
○ |
善意の占有取得者 |
○ |
× |
(5) (承継)執行文の付与
① 承継執行文の付与
仮処分債権者が仮処分債務者に対する本案の債務名義に基づいて新占有者に対して強制執行をかけるためには、(承継)執行文の付与を受けなければならない(民執法27条2項)。仮処分の効力が及ぶ悪意又は善意の承継的占有者であっても、承継執行文までもが不要になるわけではない。
② 承継執行文の付与の要件の緩和
保全命令の申立書には、当事者(債権者及び債務者)の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない(民保規13条1項)。しかし、占有者を不明にする妨害行為が行われることが多いため、仮処分命令の発令要件が緩和された(平成15年改正)。
占有移転禁止の仮処分命令(係争物の引渡し又は明渡しの請求権を保全するための仮処分命令のうち、次に掲げる事項を内容とするものをいう)であって、係争物が不動産であるものについては、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、これを発することができる(民保法25条の2第1項)。
(イ)債務者に対し、係争物の占有の移転を禁止し、及び係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずること(1号) (ロ)執行官に、係争物の保管をさせ、かつ債務者が係争物の占有の移転を禁止されている旨及び執行官が係争物を保管している旨を公示させること(2号) |
③ 占有者不明のまま発令された仮処分の執行
債務者を特定しないで発せられた占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、当該執行によって係争物である不動産の占有を解かれた者が、債務者となる(民保法25条の2第2項)。
もっとも、この執行は、係争物である不動産の占有を解く際にその占有者を特定することができない場合は、することができない(民保法54条の2)とされているため、仮処分の執行時には債務者を具体的に特定しなければならない。