• 民事保全法ー4.保全命令に対する不服申立て
  • 4.保全抗告
  • 保全抗告
  • Sec.1

1保全抗告

堀川 寿和2022/02/04 14:03

保全抗告

(1) 保全抗告の意義

 保全抗告とは、保全異議又は保全取消しの申立てについての裁判に対する不服申立てである(民保法41条1項)。保全異議、保全取消しの申立てに対する裁判も決定でなされるため、その上訴は抗告となる。保全手続は、その暫定性から本案手続のような三審制を維持する必要はなく二審制を採用している。そのため、保全抗告の裁判に対する再抗告はできない(同条3項)。

 

(2) 保全抗告できる場合

 保全異議又は保全取消しの申立てについての裁判に対しては、その送達を受けた日から2週間の不変期間内に、保全抗告をすることができる。ただし、抗告裁判所が発した保全命令に対する保全異議の申立てについての裁判に対しては、この限りでない(民保法41条1項)。

 抗告裁判所が保全異議の申立てについて裁判するのは簡易裁判所が保全命令の申立てを却下したため債権者が即時抗告をし、抗告裁判所が保全命令を発したのに対し債務者が保全異議を申立てた場合などが考えられる。この場合保全命令の事件について2度審理しているので保全抗告が禁止される。

cf これに対して、抗告裁判所が発した保全命令に対する保全取消しについての裁判に対しては、保全抗告は可能である。保全取消事由は保全命令が発せられた後に生じた事由であるため一-審制の原則に反しないからである。

 

(3) 管轄

 管轄裁判所は当該裁判をした裁判所の直近上級裁判所である。抗告の申立ては書面でしなければならず(抗告状)、申立書は原裁判所に提出しなければならない(民保法7条)。

 

(4) 審理・裁判

保全抗告の審理

 保全抗告の審理手続については、保全命令及び保全異議の規定が広く準用される(民保法41条4項)。したがって、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ裁判所は抗告に対する裁判をすることができず(民保法29条)、審理を終結するためには猶予期間をおいて決定しなければならない(民保法31条)。保全抗告の申立てに伴い、保全執行の停止・取消しなどの仮の処分をすることができる(民保法41条4項、27条1項4項5項)。

再度の考案の禁止

 原栽判所は、保全抗告を受けた場合には、保全抗告の理由の有無につき判断しないで、事件を抗告裁判所に送付しなければならない(民保法41条2項)。保全抗告の対象となる保全異議及び保全取消しの裁判は通常の決定手続より慎重な手続が採られているからである。

cf 民事訴訟法における抗告は再度の考案が認められることと比較。

抗告審の裁判

 裁判は決定でなされ、この決定には理由を付さなければならず、当事者に送達されなければならない(民保法41条4項、17条)。

再抗告の禁止

 保全抗告の裁判に対しては更に抗告をすることができない。すなわち、再抗告は禁止される。民事保全のような暫定的な裁判については三審も争うべきでなく、本案訴訟で早期に決着をつけるべきだからである。例外的に、憲法違反を理由とする特別抗告は認められる。

 

(5) 保全命令を取消す決定の効力の停止の裁判

 保全命令を取り消す決定に対して保全抗告があった場合において、原決定の取消しの原因となることが明らかな事情及びその命令の取消しにより償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、抗告裁判所は、申立てにより、保全抗告についての裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全命令を取り消す決定の効力の停止を命ずることができる(民保法42条1項)。保全命令を取り消す決定に対する保全抗告があった場合、その裁判までの間、取り消す決定の効力の停止を認めないと、保全抗告をした意味がなくなることがあるからである。