• 民事執行法ー15.債務者の財産状況の調査
  • 3.第三者からの情報取得手続
  • 第三者からの情報取得手続
  • Sec.1

1第三者からの情報取得手続

堀川 寿和2022/02/04 13:28

概要

(1) 第三者からの情報取得手続

 第三者からの情報取得手続とは、債権者の申立てにより、執行裁判所が、債務者以外の第三者(登記所、市町村等、金融機関)に対して債務者の財産に関する情報の提供を命ずる旨の決定をし、これを受けた第三者が執行裁判所に対してその情報を提供するという制度である。

 

(2) 対象となる債務者の財産

 対象となる債務者の財産は、次の3つである。つまり、債務者の全ての財産が対象となるわけではない。

① 債務者の不動産

② 債務者の給与債権

③ 債務者の預貯金債権等

 

(3) 申立権者の範囲、申立てが認められる要件

 対象となる財産の種類によって、申立権者の範囲や申立てが認められる要件が異なっている。その概要は、次のとおりである。

債務者の財産

申立権者の範囲

申立てが認められる要件

不動産

① 金銭債権について債務名義を有する債権者

② 一般の先取特権を有する債権者

① 強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがあること

② 財産開示手続の前置

給与債権

次の①又は②の債権について債務名義を有する債権者

① 扶養義務等に係る請求権

② 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権

① 強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがあること

② 財産開示手続の前置

預貯金債権等

① 金銭債権について債務名義を有する債権者

② 一般の先取特権を有する債権者

強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがあること

 

管轄裁判所

 債務者の財産に係る情報の取得に関する手続(以下「第三者からの情報取得手続」という。)については、債務者の普通裁判籍〔住所又は居所〕の所在地を管轄する地方裁判所が、この普通裁判籍がないときは情報の提供を命じられるべき第三者の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する(民執法204条)。

債務者の不動産に係る情報の取得

 債務者の不動産に対する強制執行の申立ては、債務者所有の不動産を具体的に特定して行わなければならないが、債権者がこれを把握するのは容易ではないため、債権者が債務者所有の不動産に関する情報を公的機関から取得するための手続が設けられている。

 

(1) 申立権者

 債務者の不動産に係る情報取得手続の申立てをすることができる債権者は、次の者である。

① 金銭債権について債務名義を有する債権者

 「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」は、債務者の不動産に係る情報取得手続の申立てをすることができる(民執法205条1項1号)。

 ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができない場合は、申立てをすることができない(同項ただし書)。

② 一般の先取特権を有する債権者

 「債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者」は、債務者の不動産に係る情報取得手続を申し立てることができる(民執法205条1項2号)。

 

(2) 申立てが認められる要件

 債務者の不動産に係る情報取得手続の申立てには、①強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがあること、及び②財産開示手続の前置が要件とされる。

① 強制執行が不奏功又は不奏功に至る見込みがあること

(a) 金銭債権について債務名義を有する債権者の場合

 次のいずれかに該当する場合に、債権者は情報取得手続の申立てをすることができる(民執法205条1項1号、197条1項各号参照)。

(イ) 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき。

(ロ) 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。

(b) 一般の先取特権を有する債権者の場合

 次のいずれかに該当する場合に、債権者は情報取得手続の申立てをすることができる(民執法205条1項2号、197条2項各号参照)。

(イ) 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかったとき。

(ロ) 知れている財産に対する担保権の実行を実施しても、申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。

 

② 財産開示手続の前置

 債務者の不動産に係る情報取得手続の申立ては、財産開示期日における手続が実施された場合において、当該財産開示期日から3年以内に限り、することができる(民執法206条2項、205条2項)。

 ただし、当該財産開示期日に係る財産開示手続において民執法200条1項の許可〔陳述義務の一部の免除の許可〕がされたときは、情報取得手続の申立てをすることができない(民執法205条2項括弧書)。

 

(3) 情報の提供をする第三者、対象となる情報の内容

 申立ての要件を満たす場合は、執行裁判所は、債権者の申立てにより、下記①の第三者に対し、下記②の事項について情報の提供をすべき旨を命じなければならない(民執法205条1項)。

① 情報の提供をする第三者

 債務者の不動産に係る情報の提供をする第三者は、法務省令で定める登記所である(民執法205条1項)。この法務省令で定める登記所は、「東京法務局」である(民事執行法第二百五条第一項に規定する法務省令で定める登記所を定める省令)。

② 対象となる情報の内容

 対象となる情報の内容は、「債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物その他これらに準ずるものとして法務省令で定めるものに対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるもの」である(民執法205条1項)。この最高裁判所規則で定める事項とは、「債務者が所有権の登記名義人である土地等の存否及びその土地等が存在するときは、その土地等を特定するに足りる事項」である(民執規189条)。

 

(4) 不服申立て(執行抗告)

 債務者の不動産に係る情報取得手続の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる(民執法205条4項)。つまり、申立てを却下する裁判に対しては申立人が執行抗告をすることができ、また、申立てを認容する〔=情報提供を命ずる〕決定に対しては債務者が執行抗告をすることができる。

 債務者に執行抗告をする機会を保障するために、申立てを認容する決定がされたときは、当該決定を債務者に送達しなければならない(同条3項)。また、申立てを認容する決定は、確定しなければその効力を生じない(同条5項)。執行抗告は、債務者に認容決定が送達されてから1週間以内に行わなければならないので(民執法10条2項)、この期間内に債務者が執行抗告を行わないと認容決定は確定し、その効力を生ずることになる。