- 民事執行法ー13.金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行(非金銭執行)
- 4.意思表示義務の強制執行
- 意思表示義務の強制執行
- Sec.1
1意思表示義務の強制執行
■意思表示の擬制の意義
債務者の意思表示をすべき債務は、意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停もしくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者はその確定又は成立のときに意思表示をしたものとみなされる(民執法177条1項前段)。この場合は、債務者の意思表示があったことにされればそれで目的を達成するため、それ以上現実の執行手続は必要がない。
AがBに不動産を売却したが、Aが所有権移転登記に応じてくれない場合
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「AはBに対し、別紙目録記載物件の所有権移転登記をせよ」との確定の勝
訴判決により、単独で所有権移転登記をすることができる。
■債務名義の種類
① 判決その他の裁判
判決その他の裁判は給付判決その他給付を命じるものでなければならない。また、確定しなければならないので意思表示を命じる判決に仮執行宣言を付けることはできない(大S10. 9.27)。
② 外国判決、仲裁判断
外国判決にあっては確定した執行判決、仲裁判断にあっては確定した執行決定が必要である。
③ 判決以外の裁判で債務名義となるもの
家事事件手続法による審判、民事調停に代わる決定、家事調停に代わる審判などがある。
④ 和解調書等
和解調書、認諾調書、調停調書もここでいぅ債務名義となるが、執行証書は含まれない。
■意思表示の擬制の時期
(1) 原則
意思表示を命ずる判決その他の裁判については「確定した時」に意思表示をしたものとみなされ、和解・認諾・調停・労働審判に係る債務名義についてはそれが「成立した時」、すなわち調書が作成された時に意思表示が擬制される(民執法177条1項)。
(2) 例外
次の場合は執行文付与の時に意思表示をしたものとみなされる(民執法177条1項ただし書)。
① 債務者の意思表示が債権者の証明すべき事実の到来に係るとき
債権者が事実の到来したことを証する文書を提出し、条件成就執行文が付与された時。
農地について「農地法の許可があり次第その所有権移転登記をせよ」というような場合である。
② 債務者の意思表示が反対給付との引換えに係るとき
債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合においては、執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあったことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる(民執法177条2項)。これにより執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなされる(同条1項後段)。
判決で、債務者が債権者から金何円の支払いを受けるのと引換えに移転登記をせよと命ぜられている場合がこれにあたる。債権者が命じられた金銭を支払い、領収書等を裁判所書記官に提出して執行文の付与を受けた時に意思表示をしたものとみなす。
③ 債務者の意思表示が債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るとき
債務者の意思表示が債務者の証明すべき事実のないことに係る場合において、執行文の付与の申立てがあったときは、裁判所書記官は、債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出すべき旨を催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り、執行文を付与することができる(民執法177条3項)。これにより執行文が付与されたときに意思表示をしたものとみなされる(同条1項後段)。
債務者が弁済期までに債務の履行をしないときは債務者所有の不動産を代物弁済として移転するという和解調書が成立しているような場合である。
「BがAに対して、平成○○年○月○○日までに金1000万円を支払わないときは、BはAに対し別紙目録記載の不動産につき所有権移転登記をする」との和解調書が存在する場合
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Bの不履行によりAは執行裁判所に執行文付与の申立てをする。
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裁判所書記官はBに一定期間内に弁済したことを証する文書(Aの領収書等)の提出を命ずる。
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Bが期間内に文書を提出しない場合、弁済していないから提出できないとみなし、裁判所書記官はAの和解調書に執行文を付与する。このときに、Bの意思表示の擬制がなされたものとみなされる。