- 民事執行法ー11.動産に対する強制執行
- 2.動産の強制競売
- 動産の強制競売
- Sec.1
■差押え
(1) 動産執行の申立て
動産に対する強制執行は、債権者の書面による申立てに基づき、執行官の目的物に対する差押えにより開始する(民執法122条1項)。この申立ては債権者が差し押えるべき動産の所在地の執行官に対して行う。申立てに際しては、他の金銭執行の場合と異なり、目的物を特定する必要はない。どの動産を差し押えるかは執行の場所に赴いた執行官の裁量に任されている。動産執行において、執行官は、差押債権者のためにその債権及び執行費用の弁済を受領することができる(民執法122条2項)。なお、動産執行についての執行官の開始決定・却下処分のいずれについても執行抗告できない。いずれも執行異議によることになる。
(2) 差押えの方法
① 債務者の占有する動産の差押え
債務者の占有する動産の差押えは、執行官がその動産を占有して行う(民執法123条1項)。
執行官は差押えをするに際し、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において、又は債務者の占有する金庫その他の容器について目的物を捜索することができる。
この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸及び金庫その他の容器を開くため必要な処分をすることができる(民執法123条2項)。
② 債務者以外の者の占有する動産の差押え
債務者の所有物でもこれらの者が占有する動産は、債権者が任意に提出したり、第三者が提出を拒まない場合には、執行官がその動産を占有して行う(民執法124条、123条1項)。第三者が提出を拒む場合は、たとえ債務者の動産でも直接差し押えることはできない。この場合、債務者の第三者に対する目的物の引渡請求権又は返還請求権を差し押えるしかないことになり、債権執行の方法によることになる。
(3) 差押物の保管
差押物の保管は執行官がなすのが原則である。ただし、執行官は相当であると認めるときは差し押えた動産を債務者に保管させることができる。差し押えた動産を債務者に保管させ、使用させても価値の減少が少ない場合もあるからである。この場合においては、差押えは、差押物について封印その他の方法で差押えを表示したときに限りその効力を有する(民執法123条3項)。
執行官は、債務者に差押物を保管させる場合において、相当であると認めるときは、その使用を許可することができる(同条4項)。執行官は、必要があると認めるときは、債務者に保管させた差押物を自ら保管し、又は使用の許可を取り消すことができる(同条5項)。
■差押えの効力
(1) 処分禁止効
差押えには処分禁止の効力があり、それに反した処分をしても、手続上その処分は無視される(相対的無効)。したがって、債務者に保管させた差押動産を債務者が処分しても、執行手続が続いている限りその処分は無視される(ただし、民法192条の即時取得が成立することがある。)。
(2) 差押えの効力が及ぶ範囲
差押えの効力は差押物から生ずる天然の産出物にも及ぶ(民執法126条)。したがって、債務者には天然果実の収取権はない。例えば、差し押さえた乳牛から搾った牛乳は、別途差押えの手続を要することなく、執行官は換価することができる。
(3) 引渡命令
① 意義
差押物を第三者が占有することとなったときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てによりその第三者に対し差押物を執行官に引き渡すべき旨を命ずることができる(民執法127条1項)。
この決定を債務名義として動産引渡しの強制執行をすることができ、簡易に差押物を取り戻せることにしたものである。第三者が占有することとなった事由は問わないため、即時取得した第三者に対しても命ずることができる。当該第三者は目的物をいったん執行官に引き渡した上で、第三者異議の訴えによって不服申立てをする必要がある。
② 申立期間
引渡命令の申立ては差押物を第三者が占有していることを知った日から1週間以内にしなければならない(民執法127条2項)。
③ 不服申立て
引渡命令の申立てについての裁判に対しては執行抗告をすることができる(民執法127条3項)。